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自分をさらけ出せば、子どもはかならず向き合ってくれる――教育研究グループShinka代表・荒井隆一さんインタビュー

2018年4月19日

自分をさらけ出せば、子どもはかならず向き合ってくれる――教育研究グループShinka代表・荒井隆一さんインタビュー

自分をさらけ出せば、子どもはかならず向き合ってくれる――教育研究グループShinka代表・荒井隆一さんインタビュー

「泣いたり笑ったり感動したり……先生ってホントに素敵な職業なんですよ」

そう語るのは、小学校教諭を16年経験した荒井隆一さん。現在は教育委員会で指導主事として活躍する傍ら、「教育研究グループShinka」の代表を務め、学校心理士として保護者や教師にアドバイスもしている。

そんな教育熱心な荒井さんだが、「学生時代は完全な落ちこぼれでしたよ」と苦笑いする。何がきっかけで変わったのだろう。先生を目指したいきさつや苦労、仕事のやりがいについて話を聞いた。
 

「落ちこぼれ」から教師を目指す

――「先生の仕事は大変だ」というイメージがあります。実際はいかがですか?

逆上がりができたことを喜ぶ子もいれば、集団で一つの作品を作り上げたことに泣く子もいます。そういったさまざまな子どもたちの成長の場に立ち会えるのは、感動しかありません。先生ってすごく良い仕事なんです。

子どもたちからはとにかく元気をもらえるし、卒業した後も「同窓会しよう」と連絡をくれる。僕の周りにいる先生は、喜んで働いている人ばかりですよ。

ただ、どれだけ子どもに向き合いたくても会議や授業の準備、事務的な仕事などで時間がとられることも多く、大変なのは間違いないです。だから「働き方改革」で変えていけないか、とがんばって動いています。

――荒井さんが中高生の頃はどんな子どもでしたか?

中学1年生の頃に両親が離婚。家が競売にかけられ、知らない人が家に乗り込んできて、お金になりそうなものに札が貼られていく。高校生になっても不安な生活を送るなか、「何でこんな家庭に生まれて来たんやろ」と、ふてくされて生きていましたね。

――成績はいかがでしたか?

地元の高校に通いましたが、遅刻や早退を繰り返し、ひどい成績でした。先生に反抗するのがカッコいい、と勘違いしていたのかもしれません。まさしく「落ちこぼれ」です。

高校3年生のころの荒井さん
高校3年生のころの荒井さん

――そこから、なぜ先生になろうと思ったのでしょう。

きっかけは、近所の子どもたちとの触れ合いでした。高校への通学路が新興住宅地だったので、「お兄ちゃん、こんにちは」と声をかけてくれる子がいました。その子らと話すうちに「おれ、子どもが好きかもしれない」と。それで、いつの間にか先生になることが目標になっていました。

――先生になるためには、教員免許を取るための勉強が必要ですよね。

はい。まず大学に行く必要があったのですが、当然ながらお金がかかる。でも家は貧乏だったので、通信制の大学に入学することにしました。「通信制なら働きながら通えるし、教員免許も取れるぞ」と思い、近所の造園会社に就職。しかし実際は、日中の厳しい肉体労働でクタクタになって、勉強がおろそかになってしまいました。

それで勉強もせず神戸の街で飲み歩いたり、夜の六甲山を車で暴走したり……。生活は完全に乱れ、大学2回生の終了時点でまだ9単位しか取れていなかったんです。試験も受けず、レポートも書かず、卒業にはほど遠い状況でした。
 

先輩の言葉で目が覚め、猛勉強

――その後、無事卒業されるわけですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

目が覚めたのは、大学で知り合った先輩から激励された時でした。「今の荒井くんの姿が、将来の君の姿や。今なんの勉強もできていないのに、絶対に教師になんてなれないよ」と。「いつかではなく、今変われ!」と涙ながらに語ってくれて、心の底から「ほんまや!」と思い、生まれ変わったように本気で勉強を始めたんです。

そこからは、仕事の休憩時間やトイレ、お風呂の中でも勉強しましたね。猛烈な追い上げで卒業でき、2回目の教員採用試験で合格。目標どおり、24歳で小学校の先生になることができました。
あの時、真剣に向き合ってくれた先輩には今でも感謝しています。

――実際に先生になりいかがでしたか? 印象に残っていることなどあれば教えてください。

いじめや不登校、暴力、虐待など、さまざまな問題に直面しました。僕はなぜか生徒指導を担当することが多かったんです。何かトラブルが起こったときに解決するリーダーの役目ですね。

先生になって驚いたのは、親の離婚や落ちこぼれ、暴走行為など、僕自身が過去にしてきた経験が指導に生かされたことです。

というのも、問題を起こす生徒は何かしら家庭に問題があったり、人間関係に悲しみを抱えていたりするケースが多い。そんな彼らに「実は、昔なぁ……」と体験談を話すと、「え、先生にもそんな過去があったんか」と話を聞いてくれるんですよね。急に目が変わるんです。「先生も自分と同じ境遇なのか。じゃあ信用してみよう」と思ってくれるのかもしれません。

――過去の辛い経験が、仕事に生かされたのですね。

子どもって、大人が思っている以上に純粋なんです。正直に接する大人に対しては、ちゃんと向き合ってくれる。ウソとかキレイごとでは、絶対についてこないですよ。自分をさらけ出せば、声が届く。それを実感しましたね。

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教師6年目、小学1年生を担任していたころの荒井さん
 

学級崩壊を改善させたプログラム

――荒井さんは2014年に「第63回読売教育賞」生活・総合部門で最優秀賞を受賞されていますね。どのような内容で受賞したのでしょうか?

40歳のとき、小学6年生を担当していました。教師になって16年目の頃です。6年生の担任3人で、子どもたちのトラブルが深刻化するのを防ぐためにどうすればいいのかを考え、研究と実践を行いました。

修学旅行の行き先が広島で、修学旅行で学んだことをどのように発信するか、子どもたちに決めさせたんです。自主性に任せて演劇や紙芝居、歌などを作って発表したら、地域の方から大きな評価をいただきました。2年後、それをレポートにまとめて応募した内容で受賞したんです。

――プログラムを始める前は、学級崩壊が起きていたそうですね。

はい。学年全体がひどく荒れていました。先生に対して「お前こら! ボケ!」と暴言を吐いたり、子ども同士で蹴り合ったり……。そういう1年を過ごしてしまうと、児童の心が崩れていってしまうんです。

暴言は言われた側だけではなく、言ってしまう人も傷つけます。「自分のことが好きですか? 嫌いですか?」というアンケートをとったら、「嫌い」を選ぶ児童がかなり多かった。そこで6年生の担任が集まり、「なんとか自信持たせて、卒業させたいよな」と団結した年の取り組みでした。

――具体的にはどのようにプログラムを実践したのでしょうか。

話し合う場所と時間を作り、子どもたち自身で物事を決められるようにしました。そして、教師は子どもたちが決めたことを実現できるよう手をつくす。そうすれば子どもたちは「あ、ホンマに自分たちに任せてくれるんや」と思うようになります。

広島に行った修学旅行では、6年生全体を20のグループに分けて、行き先は自由、お昼もどこで食べてもいい、としました。ただし、どの店で何を頼むかまで事前に調べなさい、と徹底させた。「Aセットはいくら?」「ちゃんと広島の魅力を感じられるもの食べてこいよ」と。教師がすべてを掌握するのは大変でしたが、子どもたちに任せて行動してもらいました。

帰ってきたあと、広島で学んできたことをどう発信するかも自分たちで決めさせました。その結果、演劇や歌、紙芝居など5つのグループで、地域の人たちに向けて発表することに決まったんです。

――自由に決めさせたことが、改善につながっていったのですね

夢中になって計画している姿や、帰ってきてからの看板の制作、演劇づくりや作詞作曲……。そんな場面が今でも強く印象に残っています。

何事も決められるより、自分たちで決めたいものなんですよ。荒れていた子どもたちも「せっかくの修学旅行だったら、楽しいことをしたい」とまじめに考えていた。

あの1年は子どもたちと格闘したし、「君たちならできる」というメッセージを常に発信し続けました。大変だったけど、一生思い出に残る良い経験ができたことは間違いないですね。

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修学旅行での学びを作詞作曲し、商業施設で歌う6年生児童(2012年)
 

自分が変われば、環境も変わる

――プログラムを実施したのは2012年、荒井先生が40歳の時ですよね。それから学校の先生は辞めてしまったのでしょうか。

当時、心のどこかで「通学制の大学には行けなかった」という負い目があったことに気づきました。「じゃあ、今から頑張ればいい」と思い、教師の籍は残したまま兵庫教育大学大学院で学び直しました。それが41歳のときです。大学院では「教師と生徒の関係を構築する」というテーマを研究しながら、学校心理士の資格も取りました。

――現在は大学院で学んだ内容を生かしながら活動をされているんですね。

そうですね。「教育研究グループShinka」ではさまざまな授業研究を行っています。たとえば、戦争と平和についてどう伝えていくか。僕が住む地域では太平洋戦争で空襲があり、5人が亡くなりました。その歴史を残すために関係者の生の声を聞き、演劇として残す取り組みを行っています。そのほか、子どもの自己肯定感をはぐくむ授業プログラムを研究、開発しています。

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「より良い教育コミュニケーションとは?」というテーマで議論中の荒井さん(右から2人目)

学校心理士としては、簡単にいうと「子どもってこういう心理状態になるから、こんな風に接したらいいですよ」とアドバイスしています。保護者や先生って、子どもを教育する立場ですよね。さらにその教育する立場の人に、知識と技術を伝える仕事です。

大学院で学んだことも学校心理士の勉強も、現在の仕事に役立っています。年齢なんて関係ない。決意して前に進めば、大きく道は開けると、改めて実感しました。

――最後に、進路や生き方に悩んでいる人へメッセージをお願いします。

僕も中高生の頃は悩みの連続でした。20歳になっても車で暴走したり飲み歩いたり……結局、自分との闘いに負けて、環境のせいにしていたんです。親が離婚したから、家が貧乏だから自分の力を発揮できない。そんな考えで生活していた。でも違う。自分が変われば環境が変わるんです。

なかなか気づくのは難しいですが、立ち上がって前に進みだせたら、いま悩んでいることもいつか自分の肥やしになると実感するはず。

僕の場合は間違いなく、過去の経験が生かされている。だから希望を持ってほしい。絶対に役に立つときがくるから、「負けるな!」と、悩んでいる人を力づけたいですね。

(企画・取材・執筆:村中貴士 編集:鬼頭佳代/ノオト)

<取材先>
【プロフィール】
荒井隆一(あらい・りゅういち) 1972年生まれ。教育研究グループShinka代表。
小学校教諭として525名を担任。関わった子どもは3,500名に及ぶ。学校心理士として教師と児童のコミュニケーション能力が及ぼす学力の影響を研究。第63回読売教育賞 生活・総合部門 最優秀賞受賞。現在、市教育委員会の生徒指導に係る指導主事として活躍。
Instagram:https://www.instagram.com/ryu0503arai/
教育研究グループSinka HP:http://www.shinka.me
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