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1カ月の生活費を知ったのはいつのことだろうーー金銭基礎教育プログラム「MoneyConnection」が目指す、誰もが輝く未来の形

2018年5月8日

1カ月の生活費を知ったのはいつのことだろうーー金銭基礎教育プログラム「MoneyConnection」が目指す、誰もが輝く未来の形

1カ月の生活費を知ったのはいつのことだろうーー金銭基礎教育プログラム「MoneyConnection」が目指す、誰もが輝く未来の形

大人になれば避けては通れない、日々の生活費や税金。

「いつかは払う」とわかっていても、「どれくらい払うのか?」「いつから払うのか?」といったリアルなお金のことは、社会に出てから知ったというケースも多いのではないだろうか。

しかしそんなお金の現実的な知識を学生のうちに得て進路選択に役立てもらおうと、およそ900の高校、11万人を超える若者に向けて開催されている出張授業がある。認定NPO法人育て上げネットと株式会社新生銀行が連携して行う金銭基礎教育プログラム「MoneyConnection(マネーコネクション)」だ。

本プログラムは、いったいどのような取り組みなのだろうか。育て上げネットの理事であり、MoneyConnectionの責任者を務める深谷友美子(ふかや・ゆみこ)さんに話を伺った。
 

高校卒業後のさまざまな進路をサポートする

――まず、MoneyConnectionとはどのようなプログラムなのでしょうか?

MoneyConnection - 1
深谷友美子(ふかや・ゆみこ)さん 
日本女子大学家政学部家政経済学科卒業。家庭科教員を志して入学したものの在学中に挫折。旅行会社での事業戦略策定、新卒採用、人材育成などの部門での経験を通して、若年層の人材育成への関心が高まり、2006年より育て上げネットの活動に参加。現在はMoneyConnectionを通して学校教育、家庭科教育とのかかわりも深めている。

MoneyConnectionは、定時制高校や通信制高校をはじめとする卒業後の進路が多様な高校を中心に開講している金銭基礎教育プログラムです。

若者にとって身近ではないけれど社会に出てから必要になる「お金」や「仕事」に関する現実的な知識を通じて、生徒自身が将来のあり方や進路を考えられるきっかけにしてほしいと思っています。

――なぜ高校生、特に定時制や通信制の高校を中心に活動をされているのでしょうか?

まず高校生に絞っているのは、大きな進路選択を迫られる初めてのタイミングだからです。義務教育である小中学生までは人によって学校選択というステップはあるものの、進学することがほとんど。また現在の日本では、高校進学も当たり前の進路選択とされることが多いですよね。

でも高校卒業後の進路は、必ずしも4年制大学ばかりとは限りません。専門学校や短期大学もありますし、留学や就職も考えられる。つまり卒業後の進路が多様に分かれる世代が高校生なのです。

高校の中でも進学校に通う生徒の多くは、大学進学を目指して学んでいます。一方で定時制高校や通信制高校の生徒は、選択肢がより幅広い。MoneyConnectionでは、そういったことを踏まえて、卒業後の進路が多様な高校生を中心にプログラムを提供しています。
 

現実的なお金の話を知るために、シミュレーション型ワーク手法で実践的に

――出張授業では、実際にどのようなプログラムを行っていますか?

授業のはじめには日々の生活にかかるコストを予想してもらいます。「一人暮らしにはどれほどのお金がかかるのか」を実感してもらうのが目的です。たとえば「家賃」「食費」といった高校生でもわかりやすいものから、「国民年金」「国民健康保険」のような普段は目にしないような項目まで用意しています。

MoneyConnection - 2
プログラム内では、3枚のワークシートを用いて授業を進める

――保険料や税金など、細かな項目分けまでされているのが印象的ですね。

生徒のみんなも「保険料なんて考えたこともなかった」「税金って、払わないっていう選択肢もあるの?」などと話しながら、ワークシートを埋めています。あとからそれぞれの項目の相場金額を発表しますが、あくまでも「日々の生活に必要なお金がどれほどなのか」を考えるワークなので、生徒が考えた答えに正解も不正解もありません。

――あくまでも自由な発想で考えることが重要なのですね。

生活コストを理解してもらったら、次は実際に「働く」をイメージしたワークに移ります。ここでは「稼ぎ方・働き方カード」と「月収カード」の2種類のカードを使って進めます。「必要な金額を稼ぐためにはどうしたらいいのか」という視点を持ってもらうことを目的としています。

MoneyConnection - 3

「稼ぎ方・働き方カード」は毎月決まった金額のお給料が入る「正社員(月給制)」、職種や勤務地などの希望が通りやすい「派遣社員(日給制)」、自分の都合に合わせた働き方ができる「フリーター(時給制)」の3種類を用意しています。

また「月収カード」も「15万円」、「30万円」、「100万円」の3種類。これをランダムに引いて、いろいろな働き方の良い面と不安を感じる面、現実的にその金額を稼ぐにはどういう働き方になるのかなどを生徒に考えてもらいます。

そして授業の最後には、「暮らし方カード」を引いてもらい、“もしも結婚したら”や“子どもが産まれたら”といった、さらに先の未来をイメージするワークも行います。

生活に必要なお金の話、稼ぐための働き方、家族ができたら……とステップを踏みながらワークを進めると、45〜50分という授業1コマ程度の短い時間ですが、終わる頃には社会に出ていく上で最低限必要なお金の知識を理解してもらえるのです。
 

ピンとこないお金の話を届けるために始まったプログラム

――そもそも、MoneyConnectionはどのようなきっかけでスタートしたのでしょうか?

MoneyConnectionを行っている育て上げネットでは、もともと中心事業として無業の状態にある若者の就労支援するためのプログラムを行っています。

その中で「お金」に関する若者の知識はどれほどあるのかが気になり、プログラムの受講者に「社会人が一人暮らしをしながら1カ月に必要とするお金はどれくらいだと思う?」と質問してみたんです。そうしたら、意外な答えが返ってきて。

――意外、というと?

「1カ月に必要な生活費は3~5万円程度」と回答する受講者が思っていた以上に多かったのです。すでに社会に出て暮らしている人であれば、一人暮らしをしながら生活していくための金額として3万円は非常に少額であることがわかるはずです。

しかし、まだ社会に出る以前の若者にとって現実的なお金の話はピンとこないですし、学ぶ機会がない。そのため1カ月に必要な生活費や税金といった基本も含めて、若者はお金の話をほとんど知らないまま社会に出ることになります。

「もしも学生の頃に現実的なお金の話を知っていたなら、将来の進路もしっかりと考えていたような気がする」といった受講者の声をきっかけに、MoneyConnectionはスタートしました。
 

「お金の話」を知ることで、将来を見据えるきっかけに

――プログラム運営の中で意識していることはありますか?

大きく分けて3つあります。1つ目は、現実的だけど自分ごとすぎないプログラムであること。もしも、生徒自身にもっと現実的な目線で理解をしてもらうなら、自分の家庭の経済事情を参考に理解を進めてもらうほうがいいのかもしれません。

しかしそれぞれの家庭には経済的な困窮などさまざまな状況があり、それを元に将来を考えることでは前向きになれない生徒もいます。そこでMoneyConnectionでは「シミュレーション型」のワーク手法を用いて、架空の人物を通して現実的に考える機会を提供しています。

2つ目は、ワークで用いる数字や説明がシンプルであること。ワークシートに登場する数字や授業内の解説では、細かな補足や例外を抜きにしています。というのも、MoneyConnectionを運営する上でもっとも大切なのは、できるだけ多くの生徒にお金の話を知ってもらうこと。最初のうちから、難しすぎる話題や例外ばかりを詰め込んでしまっては、話を聞くうちに飽きがきてしまいますよね。そのため、細かい内容は一旦省いて、できる限りストレスなくワークに取り組んでもらうことを心がけています。

――たしかに、細かい数字が出てくるだけで意欲が下がってしまうこともありますよね。

そして最後が、正解や不正解を与えないこと。MoneyConnectionを通じて生徒に届けたいのは、「貯金をするべき」「正社員になるのが正しい」といった価値観ではありません。

「働き方やライフスタイルに多様性があること」を生徒にも知ってもらうことで、将来を考えるヒントにしてほしいと思っています。どんな生き方にも正解や不正解はありません。「こんな生き方があるんだ!」と気がつくきっかけ作りができればうれしいです。

――とても実践的なプログラムなので、大人でも新しい気づきがあるように思います。実際に受講した生徒からは、どのような感想がありますか?

「一人暮らしをするためにこんなにお金がかかるとは思わなかった」「今までは学校も進路も真剣に考えていなかったけれど、もっとしっかりと考えないといけないと感じた」といった感想が寄せられます。

学校の中だけで過ごすと、社会に出てからのことを考える時間が多くはないので「なぜ勉強するのか」といった疑問に繋がりやすいです。しかしこうしたプログラムを通じてお金や仕事の話を知ってもらうことが、将来につながる「現在」をどう生きるかを考えるきっかけになっています。

――最後に、高校生に向けて、メッセージをお願いします。

一人ひとり、生き方はさまざまです。どこかに「正しい生き方」があるわけではありません。だからこそ、日頃からたくさんの情報を取り入れて、将来を少しずつ考えてほしいと思っています。

一人で結論を出したり、焦ったりするのではなく、周囲の言葉を聞きながらゆっくり慎重に進路を選択していけばいい。迷ったときには自分ひとりで悩みを抱え込むのではなく、周りの大人をもっと頼ってくださいね。

(取材・執筆:鈴木しの 編集:鬼頭佳代/ノオト)

<プロフィール>
取材先:認定NPO法人育て上げネット
活動紹介:若者支援を「社会投資」ととらえ、無業の状態にある若者の就労基礎訓練プログラム「ジョブトレ」や、その保護者の支援に取り組む認定NPO法人。また、無業化予防の一環として、小・中・高校生の学習支援や、高校等への教育支援プログラムを実施しているほか、地域・行政・企業と連携。
URL:https://www.sodateage.net/

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