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生きづらさを抱える若者にメッセージを届けるには? 朝日新聞社の企画「withyou」が取り組む想いの伝え方

2018年8月30日

生きづらさを抱える若者にメッセージを届けるには? 朝日新聞社の企画「withyou」が取り組む想いの伝え方

生きづらさを抱える若者にメッセージを届けるには? 朝日新聞社の企画「withyou」が取り組む想いの伝え方

いじめや孤独、うつ……。ニュースやSNSで、生きづらさを感じている若者のことを聞き、何かしたいと思うことがある。しかし、実際どんな言葉をかければいいのかわからなかったり、励まそうとしても上手く伝わらなかったり、逆に傷つけてしまったりすることもあるだろう。

そんな中、朝日新聞社が運営するニュースメディア「withnews」では、2018年4月から生きづらさを抱える10代への企画「#withyou ~きみとともに~」を開始。その反響は大きく、Twitter上ではバラエティー番組『水曜どうでしょう』のカメラ担当ディレクターである嬉野雅道さんをはじめ、多くの人々から共感と励ましの声が寄せられている。

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そもそも、なぜ新聞社がこの企画を取り組むにいたったのか。そして、若者に想いを伝えるにはどうすればいいのか、どんなことに気をつければいいのか。クリスクぷらす編集長の芹沢が、withnews編集部の奥山晶二郎さん、金澤ひかりさん、河原夏季さんに聞いてきた。

<取材先>
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●奥山晶二郎さん
朝日新聞のスマホ世代向けウェブメディア「withnews」編集長。2000年に入社。初任地の佐賀で起きた西鉄バスジャック事件では、当時17歳の少年の親族や被害者を取材。その後、山口、福岡などでの勤務を経てデジタル部門へ。学生時代は嫌なことがあると漫画喫茶に行っていた。会話はしなくていいけど視界に入る人はいる。ナイトパックなら何時間もいられる。人それぞれ居心地のいい空間の選択肢がいくつかあるといいなと思っている。
Twitter:https://twitter.com/o98mas

 

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●金澤ひかりさん
朝日新聞記者。2010年に入社後、千葉、富山、三重に赴任。警察や行政取材などを担当する中で福祉課題に関心を持つ。現在は紙面制作をする大阪編集センターに在籍。1987年横浜市生まれ。7歳で鹿児島県の離島に引っ越し、高校卒業までを過ごす。疎外感、劣等感を感じながらそこそこしんどい10代を送った。当時は読書や音楽、書道に没入することで現実逃避しながら「絶対にここから出る」という決意だけを頼りに生きていた。星野源さんの楽曲が大好き。「変わらないまま」を聴きながら10代を思い出している。
Twitter:https://twitter.com/hikarikkkkk

 

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●河原夏季さん
withnews編集部の記者兼編集者。 2010年に入社後、大阪、愛媛、埼玉、東京編集センターを経て現職。1986年新潟県佐渡島生まれ。小中学校のころの「居場所」はアニメや漫画、インターネット掲示板。絵を描くことが息抜きで、学校から帰ると毎日ペンを持った。周りに同じ趣味の子はいなかったが、ネットで出会った子と一緒にイベントに参加。アニメ雑誌にもたびたび投稿し、採用されることで「認められる」喜びを感じた。
Twitter:https://twitter.com/n_kawahara725

 

<聞き手>
芹沢孝広
●芹沢孝広
クリスクぷらす編集長。1972年生まれ。大学卒業後2年間、世間になじめずバンド活動をしながらフリーター生活を送る。その後、IT業界の大手企業からベンチャーまで数社を経て、株式会社クリスクのCTOに就任した。エンジニアとしてシステム開発をしながら、広報業務も兼務。各界の著名人をゲストに招いた自社セミナーを主催し、多様な生き方に触れ、クリスクぷらすを立ち上げる。現在は、ベンチャー企業支援や、ロックバー経営などに携わりながら、多様な生き方を実践中。2児の父。

座間事件をきっかけに見直した新聞の役割

芹沢
「#withyou ~きみとともに~(以下、#withyou)」は、どういう経緯で始まったのでしょうか?

金澤さん
きっかけは、2017年10月末の「座間事件(※)」です。当時、私は編集者として事件の紙面作りをしていました。そこで事件の経緯を知っていくうちに「周りの大人たちが被害者となった若者たちに寄り添えていたら、事件は防げたのではないか。新聞社にも適切な相談先を伝える義務があったのではないか」と思ったんです。

ただ、従来のように新聞の紙面上で相談先を紹介するだけでは、若者には届かない。そこで、彼らが欲しているメッセージにくっつける形なら、相談先を知ってもらえるのではないかと考えました。

(※神奈川県座間市のアパートの一室で、若い男女計9人の切断遺体が見つかった事件。加害者は、被害者の大半とTwitterを通じて知り合ったという)

芹沢
だから、#withyouの記事の末尾には全国の相談先を記載しているんですね。ちなみに、若者はどんなメッセージを欲していると考えたのでしょう?

金澤さん
いじめや不登校などを経験した当事者にヒアリングしたところ、言葉の使い方の面ではいわゆる「エモい言葉」が共感されやすいという印象を受けました。情報をわかりやすく整理したものではなく、ニュアンスで伝わるようなものだったり、会話の中でよく使ったりするようなものですね。

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取材当日は、大阪からSkypeで参加した金澤さん

奥山さん
これまでの新聞は、なにか1つの正解を示すことを仕事とする節がありました。それも大事ですが、正解が1つとは限らない現代を生きる若者にはどうしても距離を感じさせてしまう。そこで#withyouでは、世の中にはいろんな正解があることを若者自身が身近に感じられる言葉や表現を用いて伝えようとしています。

芹沢
ある人にとっての正解が、誰にでも当てはまるわけではないですからね。どの記事でも「正解はコレだ!」と言い切っていないのが、とても良いなと思っていました。

河原さん
いろんな正解がある中の、あくまで1つの事例として紹介していますね。#withyouで取材してきた方々のほとんどは、いじめや不登校の経験者です。その方が身近に感じられて、共感できるのではないかと考えています。

もちろん、有名人を取材することもあります。そのときは遠い存在と感じられないように、「みんなもこういう悩みあるよね」というふうに、イメージしやすい場面を冒頭に持ってくるなどの工夫をしています。

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8月26日に配信された中川翔子さんへのインタビュー記事。新学期の悩みから書き始めるほか、重要なメッセージを箇条書きでまとめたり、動画を配信したりするなど工夫を施している。

若者に寄り添うには、わかったフリをしないこと

芹沢
若者にメッセージを伝える上で、大事にしていることはありますか?

金澤さん
嫌悪感を抱かれないようにすることですかね。大人って正解を示そうとして、つい上辺だけの言葉を掛けてしまいがちです。例えば、「いつか明るい未来が開けるよ」という言葉はよく耳にしますが、「その『いつか』っていつなの? 今が辛いことをわかってよ!」と思う若者も少なくない。

賢くて感性も豊かな若者は、上辺だけの言葉をすぐに見抜いてしまいます。だから、取材対象者の言葉が若者に向き合った結果として出てきたものか、そうではないのか。取材者として見極めるようにしていますね。

河原さん
#withyouでお話を伺った方々は、本当によく考えてメッセージを選んでくださっています。中には、「このメッセージを伝えることは、本当に良いことなのか」と悩まれる方もいらっしゃいます。人それぞれ受け取り方も異なりますし、自分では良いと思っていても、他人にとっては逆効果になる可能性もありますから。

でも、その人だからこそ伝えられることもあるはずです。なので、それを上滑りさせないように届けることを意識しています。

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奥山さん
あと決して、「わかったフリ」をしないことですよね。本当はわからないのに、「わかっているよ」という姿勢で寄り添おうとしても、上滑りしてしまう可能性が高い。けれど、「この人はわかっていないけれど、わかろうとはしてくれているんだな」といったことが、結果として伝わってくれたらいいなと。

芹沢
#withyouでは、個々に寄り添っているのが見えるんですよね。数人でも刺さる人がいればいい、というか。クリスクぷらすも同じで、すべての人にわかってもらう必要はないんですよ。でも、特定の困っている人に届くメディアになればいいなと思って運営していて。その点も似ていると感じました。

生きづらさを抱える若者に必要なこととは?

芹沢
#withyouの企画を通して、若者に伝えたいことは何でしょうか?

金澤さん
身勝手な願いかもしれませんが、死なないでほしいなと……。だからこそ、私は若者に信頼できる相談先を見つけてもらいたいと思っています。

芹沢
それって、ある意味で安心できる居場所と出合うことですよね。悩んでいる若者に限らず、誰もが自分の居場所を求めて生きていると思うんです。一人ひとりに合った居場所は絶対にあるはずなので、その情報を幅広く伝えていきたいですよね。

金澤さん
概念的な居場所でもいいんですよね。例えば、この言葉があれば頑張れるとか、この曲を聴けば安心するとか。「これがあるから生きていける」というものを、どこかで見つけてもらえたらいいなと思います。

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奥山さん
あとは、いろんな生き方をフラットに認め合えるようになればいいなと。どっちが良い・悪いという議論になることがありますが、考え方は人それぞれ異なるものです。だったら、お互いの生き方を尊重できるようになれば、もう少し生きやすい世の中になっていくと思うんです。

河原さん
その点でいうと、大人の反応も変わっていかなきゃいけないなと思います。例えば、いまだに不登校をマイナスと捉える大人も少なくありません。#withyouを通して新しい価値観を大人に知ってもらって、悩みを抱える子どもにどう向き合っていくのか、そのヒントを発信できればいいなと。

周囲の大人はどうやって若者にメッセージを伝えればいい?

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芹沢
#withyouではメディアを通じて、若者に向けてメッセージを届けています。若者の近くでメッセージを直接届ける立場にある親や教師などの大人は、どういうことに気をつけるといいと思いますか?

金澤さん
子どもの話をしっかり聞いて、認めてあげることが大事だと思います。以前にうつ病を抱える子どもの保護者に取材したとき、子どもをフラットに見ているなという印象を受けました。その方は外部の支援先に相談したり、うつ病に関する情報を集めたりして、子どものことを理解しようと努めていました。

「なんで他の子と同じようにできないの!?」と思うこともあるかもしれませんが、まず子ども自身がいまどういう状況にあるのかを理解しようとし、子どもの味方になってほしいなと強く思います。

河原さん
大人も子ども目線で考えてもらえるように「不登校のお手紙問題」についての記事も配信しました。不登校の子どもに向けて、「学校来てね」「待ってるよ」という内容の手紙を送ることは一見良いことのように思えます。

しかし、不登校新聞の協力で行った、不登校の生徒もしくは経験者を対象としたアンケートでは、手紙をもらったことに対して「よかった」と答えたのは2割程度でした。「よくなかった」と答えた人の理由としては「学校のことを考えるだけでも嫌だった」「『待ってるよ』という言葉がつらかった」などがありました。お手紙をプレッシャーに感じる子どももいるようです。

このように当事者の立場になってみると、また違った見方ができることもあります。一度立ち止まって考えてもらえるといいなと思います。無意識の内に子どもを苦しめている可能性もありますので。

奥山さん
一歩引いて俯瞰することが大切ですよね。いざ自分の子どもが不登校になると、漠然とした不安や偏った考え方を持つこともあるかもしれません。でも、学校に行くことが必ずしも正しい時代ではありませんし、学校に行かなくても立派に生きている人もいます。

どんなふうに生きるのが正解なのかは誰にもわからない。だからこそ、これからもさまざまなメッセージを発信して、いろんな生き方があるということを伝えていけたらなと思います。

(取材・執筆:野阪拓海  編集:鬼頭佳代/ノオト)

<取材先>
取材先名:withnews
詳細:朝日新聞社が運営するSNS に敏感なスマホ世代に向けた総合ニュースサイト。「気になる 話題を、もっとおもしろく」をテーマに、新聞記者が広く深く取材をして発信している。読者からの取材リクエストを受け付けており、読者とのコミュニケーションを大切にしている。
URL:https://withnews.jp

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