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10代の時、よく悩んでいたのはなぜ? 認知行動療法の第一人者・大野裕先生に聞く、問題に対処できる考え方

2019年2月14日

10代の時、よく悩んでいたのはなぜ? 認知行動療法の第一人者・大野裕先生に聞く、問題に対処できる考え方

10代の時、よく悩んでいたのはなぜ? 認知行動療法の第一人者・大野裕先生に聞く、問題に対処できる考え方

自分の考えが伝えられない、周囲との人間関係がうまく築けない、自分をダメな人間だと思ってしまう……。そんなネガティブな気持ちで過ごしている人は少なくありません。なかには悩みにうまく対処できず、憂鬱になってしまう人もいるでしょう。

そうした気持ちの原因は、目の前の問題にとらわれすぎていることにあります。こうした考え方から自由になり、冷静に現実に目を向け、問題に対処する力を育てていくのが「認知行動療法」です。近年、うつ病や不安症などの治療として注目を浴びている心理療法ですが、日常のストレス緩和や問題に向き合う力を育成する上でも、効果的です。

10代の頃にかかえやすい悩みと考え方はどう関係があるのか、当時の悩みを解決するにはどうすれば良かったのか、悩んでいる子どもに対して周囲からはどうアプローチすればいいのか。今回は10代の悩みにスポットライトを当て、こうした疑問の数々を認知行動療法の第一人者である大野裕先生に聞いてきました。
 

どうして10代は悩みが多いの?

――10代は気分の浮き沈みが激しく、とても不安定な時期だと言われています。僕自身も10代の頃はよく悩んでいたのですが、何が原因だったのでしょうか?

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10代は、大人の体へ急速に変化する「生物学的な成長」が起こるのに加えて、学校内での競争や進路選択などの「社会的なプレッシャー」が強くかかる時期です。こうした状況で私たちは、「自分はどういう人間か」「これからどう生きていくのか」など自身のアイデンティティや方向性を模索し、徐々に自己形成していきます。

その急激な変化のなかで、「気持ちが追いつかない」「理想の自分になれない」などの葛藤が生まれ、どうしても不安定になりやすいのです。

――確かに、他人からどう見られているのかが気になる時期ですよね。他人と比較して、「自分はなんてダメなんだろう」と責めていました。認知行動療法の観点から見ると何が問題なのでしょうか?

1つは、「●●ができない自分はダメだ」と何事も一括りにして、細かく状況を見られなくなっていること。できている部分はたくさんあるのに、できていない部分にばかり目が向いてしまっているわけです。すると何か1つ失敗しただけで、全てがダメだと感じてしまいます。

もう1つは、過去や未来にとらわれ、今に目が向かなくなっていること。過去を思い出して「あんなことしなければよかった」と後悔したり、未来を想像して「どうせ自分は失敗するに違いない」と悲観したり。こうなると、今何ができるかが考えられず、問題に向き合えなくなってしまうのです。

――問題に向き合えないがゆえに、さらに自分を責めてしまう悪循環もありますよね。今に目を向けるためにはどうすればいいのでしょうか?

大切なのは「なぜできないか(Why)?」ではなく「どうすればできるのか(How)?」を考えることです。

そもそも原因探しをすると、うまくいかなくなるものなんです。原因が分からなかったり、分かったとしても変えようがなかったりすることが多いので。

それに、親から「なんでこんなにテストの点数が悪いの?」と聞かれると、責められているように感じますよね。それと同じで、自分自身に「なぜできないか?」を問いかけつづけると、しんどくなってしまいます。

問題をきちんと把握するために、少し立ち止まって、今を整理してみましょう。できることもできないことも全部を受け入れるのは、実はとても勇気が必要です。そして、どうやって解決していくかを考えて、一つひとつ段階を踏んでいきましょう。
 

人間関係の悩みにどう向き合う?

――人間関係に悩む10代は多いと思います。僕も、なんとなくクラスメートとの間に距離を感じ、「自分は嫌われているんじゃないか」と感じていました。そんな時、どう考えればよかったのでしょうか。

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自分が相手に嫌われているかどうかは、さほど重要ではないと理解しましょう。もっとも重要なのは、相手と仲良くなりたいという気持ちです。

こちら側の態度によって、相手との関係性は変わっていきます。笑顔で接していれば相手の表情は和らぐし、イライラしていれば相手の表情は固くなります。だから、「自分は嫌われている」と思っていると、ますます距離生まれてしまう。

もし嫌われていると感じたら、何がうまくいっていないのか、それをどう変えればいいのかだけを考えればいいのです。

――自分の気持ちに立ち返って、正直になってみることが大切だ、と。

はい。私たちは物事を悪い方向に考える人間の防衛本能があるんです。例えば、一人暮らしをしている部屋で急に物音がした時、「不審者かもしれない」と思っても、「素敵な人が来た!」とは思わない。物事をネガティブに捉えることは、決して悪いことではありません。

とはいえ、マイナス思考にとらわれすぎると、先に進めなくってしまうので、バランスをどう取っていくかですね。

――よく理解できるのですが、一方でポジティブに考えようとしていても、ネガティブな方へ引きずられてしまう人も多いと思います。ネガティブな考えに偏らないために、何を心掛けるといいのでしょうか?

ポイントは2つあります。1つは自分が置かれている状況を冷静見て、考えを整理していくことです。具体的な方法として、動揺した場面とその時の感情、自動思考(瞬間的に頭に浮かぶ考えやイメージ)などを書き出して、整理するコラム法があります。

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7つの項目に沿って、状況や考えを整理するコラム法。それぞれの人が使いやすいよう、項目を変えたり、一部項目だけ使用したりしても良いのだそう。

コラム法は効果的ですが、一人で考えていると行き詰まってしまうこともあるはず。そのため、もう1つが人に相談することです。誰かに話すと考えが整理されますし、自分を理解してもらえれば気持ちが落ち着きます。

ただ、他人からのアドバイスには役に立つものと、そうでないものがあります。いいアドバイスを過度に期待せず、「自分に適しているものがあればやってみる」くらいの気構えでいたほうがいいでしょう。
 

相手に自分の気持ちをどう伝える?

――問題解決のために、他人に働きかける場面もあるかと思います。例えば、親から「もっと勉強しなさい」「いい大学に行きなさい」と言われ、強いプレッシャーを感じているとしたら、子どもはどうやって気持ちを伝えるといいのでしょうか?

比較的実践しやすいのは、ストレートに自分の気持ちをぶつける「強い言い方」と相手に気を遣って自分の気持ちを隠す「弱い言い方」を考えて、その両方を組み合わせることです。

例に当てはめて言うと、次のようになります。

5s

より説得力を持たせるために、意識したいのが「みかんていいな」です。これは、“み”たこと(客観的事実・状況)、“かん”じたこと(自分の気持ち)、“てい”あん(提案)、“いな”(可否を尋ねて否定された場合の対案)の4つの要素のことです。

6s
――やみくもに気持ちをぶつけるのではなく、客観的な事実や提案を入れつつ、自分の考えを伝えていくわけですね。確かにこれだと、相手がどんな状態にあるのかが分かるので、建設的なアドバイスができそうです。

親からしたら、子どもが何をしているのか、何を考えているのかは、やっぱり分かりづらいんですよ。見えないからこそ、つい口うるさくなってしまうのではないでしょうか。

あとは、どう伝えるかだけでなく、誰が伝えるかも大切ですね。自分の口から言いづらいことや、1対1だと緊張して上手く話せないこともあるはずです。その場合、学校の先生や親しい人などにお願いして伝えてもらったり、同席してもらったりしてもらいましょう。

――そんなふうに他人に助けを求めるのは、ハードルが高く感じます……。

悩んでいる時には、「自分で解決しないといけない」と思い込みがちです。でも、一人で背負い込んで、体調を崩してしまったら元も子もありません。適度に他人を頼るのは、やはり必要ですよ。

確かに「誰も自分なんか助けてくれない」「みんな忙しいから、頼られたら迷惑なんじゃないか」と考える人も多いです。しかし、人って意外と助けてくれるものですし、頼られてうれしいと感じる人もいます。あまり難しく考えず、気軽に相談してみるといいのではないでしょうか。
 

周囲の大人は「悩んでいる子ども」にどう対応すればいい?

――ここまで子どもの視点から質問してきました。次に、子どもの周りにいる親や先生は彼・彼女らにどうアプローチすればいいのでしょうか。

7s

まずは悩んでいる子どもを見守ったほうがいいのか、声を掛けたほうがいいのかを判断することです。もし自分なりの工夫が見えて、前に進んでいるようであれば見守ったほうがいいでしょう。逆にあまり進展がなくて、一人で悩んでいるようであれば声をかけてみましょう。

この判断は難しいのですが、あまり失敗を恐れないのがポイントです。どうするか迷ったら、とりあえず声を掛けてみる。それでうまくいかなければ、臨機応変に変えていけばいいんです。

――見守る際の注意点はありますか?

そもそも親や先生にとって見守るのは、とてもエネルギーが必要です。辛抱しきれなくて、口を出してしまうこともあるでしょう。ただ、しっかりと見守り続けると、子どもは自分が信頼されていると感じて頑張ろうとするものです。なので、子どもにプレッシャーを与えないよう、普段と変わらない態度で接するのが一番ではないでしょうか。

――逆に声を掛けるときは、何を意識すればいいでしょうか?

「最近、食欲がないね」「なんとなく表情が暗いよ」など、できるだけ具体的に感じた気づきを挙げることですかね。そういう内容だと、子ども自身もちゃんと見られていると感じ、話しやすくなるので。

あと、アドバイスすることよりも、子どもと一緒に問題や考えを整理することを意識しましょう。ありがちな失敗例が、「自分はダメな人間だと思う」と言う子どもに対し、「そんなこと考えちゃダメだよ。もっとポジティブに考えないと」など、相手を否定してしまうことなんです。こうなると、「ポジティブに考えられない自分はやっぱりダメなんだ」と落ち込んでしまう。

だから、「自分から見ると、ここはうまくできていると思う。あなたはどう思う?」など具体的なポイントを伝えつつ、相手自身の考えを引き出すのが大切です。

――大人は自分の方が子どもよりも正しいと思って、アドバイスをしがちですよね。

特に親子では、親が正しい立場になりがちなので、それは意識しておいたほうがいいでしょう。

8s
2018年12月に出版された新刊『気持ちが晴れればうまくいく』(日本経済新聞出版社)。大野先生が日本経済新聞で連載中のコラム「こころの健康学」をまとめたもので、こころの力を生かすためのヒントが書かれている。

――最後に悩んでいる10代に向けて、メッセージをお願いします。

悩みを抱える人には、すごく可能性があると思うんです。なぜなら、それだけ身の回りの出来事を、自分事として捉えられているということだから。

自分なりに解決に向けて試行錯誤していけば、問題に対処する力が育まれていきます。この力はこの先ずっと役に立つ。だから、今悩んでいる経験を大切にしてほしいです。

大切なのは、諦めないこと。長い歳月が必要かもしれませんが、潮目が変わる瞬間は必ずやってきます。「人生100年時代」と言われる今。100歳まで生きるとしたら、30歳で大学を出てもあと70年あり、いくらでも取り返しが効きます。私自身、高校を落第して、大学入試で3回も浪人しました。結局、大学を卒業したのは30歳手前。悩みから抜け出すまでには時間がかかりました。

解決に時間がかかっても悲観的にならず、目の前の問題に立ち向かってみてください。きっとその経験は無駄にはなりませんから。

(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト  編集:鬼頭佳代/ノオト)

<取材先>
大野裕さん

精神科医。1950年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。コーネル大学医学部、ペンシルバニア大学医学部留学などを経て、慶應義塾大学教授、国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター顧問。日本認知療法・認知行動療法学会理事長。学校の先生が集まる認動行動療法の研究会での講演や、生徒向けの認知行動療法プログラムの提供などを通じ、認知行動療法を日本に広めている。
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