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どうすればお互いの意見を尊重できる? 慶應義塾大学・田村次朗教授に聞く、Win-Winな関係をつくる交渉学

2019年8月20日

どうすればお互いの意見を尊重できる? 慶應義塾大学・田村次朗教授に聞く、Win-Winな関係をつくる交渉学

どうすればお互いの意見を尊重できる? 慶應義塾大学・田村次朗教授に聞く、Win-Winな関係をつくる交渉学

進路相談や部活、親とのやりとり、アルバイト。さまざまな場面で、自分の気持ちがうまく伝わらないと感じたり、納得できないけど諦めてしまったりしたことはないでしょうか?

そんなときに大切なのは、「交渉学」の視点かもしれません。交渉学の視点を取り入れることで、お互いの気持ちを尊重した対話ができる可能性がグッと高まるんだそう。

では、交渉学を日常で生かすにはどうすればいいのでしょうか。『16歳からの交渉力』(実務教育出版)の著者であり、交渉学の第一人者である慶應義塾大学の田村次朗教授に、中高生から実践できる交渉学について聞きました。
 

「交渉=駆け引き」ではない。交渉学はWin-Winな関係のためにある

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――交渉“術”はよく耳にしますが、交渉“学”はあまり聞き慣れない言葉です。交渉学とは、一体どんな学問なのでしょうか?

交渉と聞くと、「自分が利益を得るために行う、相手との駆け引き」というイメージを抱く人は多いかもしれません。

しかし、交渉の本来の目的は「相互に受け入れられる条件を導き出し、合意すること」です。交渉の結果として、お互いが利益を得る「Win-Winの関係」が成立しなければなりません。

つまり、交渉学とは相手との利害関係や物事の事実関係を整理しながら、交渉を通じて最適な問題解決を図るための学問なのです。決して意見の押しつけやだまし合いを推奨するものではありません。

――Win-Winの関係が成立する交渉には、何が大切になりますか?

もっとも大切なのは「傾聴力」です。交渉の基本は相手の話をよく聞き、その情報をうまく整理すること。相手の状況が分からないままで交渉してしまうと、自分の意見を押しつけてしまいがちです。

例えば、ある日突然子どもから「地元の国公立大学を目指していたけど、東京の私立大学に受験したい」と言われた時、反対する親は少なくないでしょう。なぜなら、親側の経済的な問題、子どもの明確な意志が感じられないなど、素直に応援できない要因があるからです。

この場合の適切な交渉は、「東京の私立大学を受けたいんだけど、お父さん(お母さん)はどう思う?」とまず質問することです。そこで親の考えや状況が理解できれば、その後のコミュニケーションが取りやすくなります。
 

交渉は準備が8割。事前準備の5ステップとは

――交渉学を実践するためには、具体的にどうすれば良いのでしょうか?

交渉は「準備8割・現場2割」と言われるほど、準備が大切です。効率的で効果的な準備には、5つのステップがあります。

<交渉の準備の5ステップ>
1.状況を把握する
2.ミッション(目的)を考える
3.ターゲット(目標)を設定する
4.創造的選択肢を考える
5.BATNA(合意できなかったらどうするかを考える)

1.状況を把握する

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まず、自分と相手の考えや状況、関係性などを整理し、「状況を把握する」こと。頭の中にあることを書き出し、自分の考えを整理してみます。その上で、相手の考えや状況を調べてみましょう。

2.ミッション(目的)を考える

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次に、「ミッションを考える」とは、その交渉を通じて何を目指すのかを明確にすること。交渉において相手との協働はとても大切です。一つの目的(ミッション)に向かっている意識をお互いに持てると、信頼関係を築きやすくなります。

3.ターゲット(目標)を設定する

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3つ目の「ターゲット(目標)を設定する」は、ミッションを具体的な条件や数値に置き換えること。例えば小遣い交渉をする際、最高目標が7,000円、最低目標が4,500円だとします。この際、最高目標数値の根拠を説明することが大切です。なぜなら、交渉の目的はお互いが譲歩し合って合意することではなく、納得し満足することだから。落としどころを探すのを目的にしてしまうと、最低目標の数値に落ち着けようとしてしまいます。

4.創造的選択肢を考える

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「創造的選択肢」とは、少しでも最高目標に近づけるためのアイデアです。お互いの要求をぶつけ合うだけでは、交渉は成立しません。相手の背景に配慮したアイデアを考え、提示することで、自分だけではなく相手も納得できる合意に近づけられます。

5.BATNA(合意できなかったらどうするかを考える)

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「BATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)」とは、合意が難しい場合の最善の代替案のこと。ノーと言える準備をしておかないと、際限なく譲歩せざるをえなくなります。逆に、BATNAがあれば、より対等な立場で交渉を進められるので、意思決定の質が向上します。

この5つのステップで準備すれば、交渉の質はグンと上がります。
 

交渉の「罠」にはまらないための解決策

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――しっかり準備しても、交渉が決裂しそうな時はどうすればいいですか?

大前提として交渉学では、交渉は決裂させないように勧めています。そもそも交渉が決裂してしまう時点で、誤ったコミュニケーションをしているわけですから。

典型的な状況は「二分法の罠」に陥っている時です。二分法とは、「白か黒か」「イエスかノーか」というふうに二者択一で割り切る論理の展開方法のこと。このように相手の選択肢の幅を狭めてしまうと、どちらが折れるかという単純な議論になってしまいます。

――二分法の罠への対策はありますか?

基本的に交渉が決裂しそうな時は、かなり感情的になっているんです。そのため、その場で判断を下してしまうと、絶対に論理的な合意に至りません。

それを避けるには、クールダウンが必要です。「今日はここで一旦止めて、また明日話し合おう」と仕切り直す。その上で、「今日は、二分法の罠にはまって建設的な議論ができなかったな」と冷静に振り返る。

そして次の交渉の場では、「昨日はよく理解できなかったから、もう一度説明してほしい」と深堀りをしていく。一般に深掘りするほど、選択肢は増えるので、二分法の罠にはまりにくくなります。

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2015年に出版された『16歳からの交渉学』(実務教育出版)。3人の高校生が交渉を通じて、それぞれの悩みを解決していくストーリーとなっている

――交渉が決裂しそうになっても諦めず、仕切り直して傾聴し続けていくことが大切だ、と。

そうですね。また、もう1つ意識しておくといいのが「人と問題の分離」です。交渉しているとき、その相手と問題(内容)は切り離して考えなくてはなりません。しかし、人は感情的になった時、つい相手と問題を同一視してしまうものです。 

例えば、親子で進路について意見が合わない時に、親がカッとなり「そんな風に育てた覚えはない!」と言ってしまうなど。もともと「進路をどうするか」について話しているのに、実際には、子ども自身に怒りの矛先が向かってしまっている。

これを避けるには、攻撃のベクトルを「人」から「問題」に意識的に変える必要があります。僕がよく使うのが、紙やホワイトボードに議論している問題を書き出すこと。そして、その問題に対して怒っていると、相手に伝えることです。

――確かに面と向かって話し合っていると、その人に対して怒りが向いてしまいそうです。

そもそも交渉はお互いが異なる意見を持っているから行うものです。対立自体は決してネガティブなことではないので、下手にお茶を濁す必要はありません。むしろ違いを認識した上で、お互いが合意できる解決策を探していく方が建設的ですよ。
 

子どもとの交渉では、大人は何を意識すればいい?

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――これまで中高生が周囲の大人に対して交渉するシチュエーションを想定してきました。逆に大人が中高生に交渉する際、意識した方がいいことはありますか?

基本的には、これまで説明してきた流れで問題ありません。ただ、親子間だと突然交渉を吹っかけられることが多いんですよ。例えば、夕食の席で急に進路の話が始まるとか。その場合は事前準備なんかできませんので、「批判せず、傾聴する」というスタンスだけ意識してみてください。

傾聴していると相手の考えや状況が見えてきます。そこから、事前準備の5つのステップを踏むことができる。逆に最初から批判してしまうと、感情的な議論に陥ってしまいますね。

――中高生に交渉学の視点を身につけてもらうためには、何を教えればいいのでしょうか?

僕がいつも話しているのは、「饒舌(じょうぜつ)な人はおしゃべりを全て質問に変え、無口な人はラッキーだと思え」ということ。

饒舌な人というのは自分のことを話すだけで満足して、相手の話を聞かないことがあるんです。すると、相手から情報を受け取れなくなってしまうので、実は損している面が大いにある。ですので、おしゃべりは人の話を聞く方向で使ってもらいたいなと。

逆に無口な人は自分の聞いてみたいことを聞いて、相手に喋らせていればいい。その結果、いろんな情報を受け取れて、自分の学びに変換できますから。

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――最後に、中高生に向けてメッセージをお願いします。

自分の人生を振り返ってみると、饒舌な面も無口な面もともにありました。昔は場を盛り上げようと、よく自分のことをしゃべっていました。でも、よく考えてみれば人前ではあまりしゃべりたくない自分もいて。それで両面を上手に生かそうと思い、人前に出て質問するようにしたんです。

すると、それぞれの人がいろんな経験を持っていることに気づき、人って面白いなと思えるようになってきました。そうやって傾聴を意識しながら、ポジティブに人と向き合っていくと、衝突やケンカも起きなくなってきます。人間は言葉の力で困難を乗り越えられるので、ぜひ交渉学を通じてそのことを体感してもらいたいですね。

(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト  編集:鬼頭佳代/ノオト)

<取材先>
田村次朗さん

1959年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。一般社団法人交渉学協会理事長。ハーバード大学国際交渉学プログラム・インターナショナル・アカデミック・アドバイザー。日本における交渉学の第一人者として、日米通商交渉、WTO(世界貿易機関)交渉等に携わる。またその一方で、実務教育としての「交渉学」の開発に取り組んでいる。著書に『ハーバード×慶應流 交渉学入門』(中公新書ラクレ)、『16歳からの交渉力』(実務教育出版)などがある。
一般社団法人交渉学協会:https://negotiaclub.com

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