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カミングアウトには成功も失敗もない−−NPO法人バブリング代表・網谷勇気さんに聞く、「ありのままの自分」の伝え方

2019年9月26日

カミングアウトには成功も失敗もない−−NPO法人バブリング代表・網谷勇気さんに聞く、「ありのままの自分」の伝え方

カミングアウトには成功も失敗もない−−NPO法人バブリング代表・網谷勇気さんに聞く、「ありのままの自分」の伝え方

大切な人には、自分のことをちゃんと分かってほしい。けれど、もし打ち明けたら「重い」と思われるかもしれない、距離を取られてしまうかもしれない。そもそも、受け入れてもらえなかったらどうしよう……。もどかしさ、不安、緊張、さまざまな感情がうずまきます。

そんな中、大切な人へのカミングアウトの応援する団体があります。それがNPO法人バブリング。同法人では、多様性についてのワークショップやさまざまな個性や悩みを持つ人々のカミングアウト体験を掲載したサイトの運営などをしています。

なぜ人々のカミングアウトの応援をするのか、カミングアウトの際に何を大切にすればいいのか、「らしさ」を受け入れる社会を作るにはどうすればいいのか。カミングアウトにまつわる疑問を、バブリング代表の網谷勇気さんに投げかけました。
 

「寛容さには強さが必要」――バブリングが目指すもの

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――そもそも、なぜカミングアウトに注目したのでしょうか?

カミングアウトというとちょっと大げさな感じがしますが、もっと多くの人が自分の話をして、相手の話を聴くのが当たり前になればいいなと思っていて。

日本では、周囲に合わせて「普通」でいることが良しとされる雰囲気があります。そのため、自分の意見を大事にする習慣があまり身に付いていないと思うんです。そうなると自分の気持ちにも気づきにくくなりますし、自分と異なる特性の人を受け入れにくくなってしまう。

バブリングでは、カミングアウトを「言えなかったことを打ちあけて新たな関係を築くことで、自分らしく生きていくための手段」と定義しています。

カミングアウトしやすい環境を作ることで、「ありのままの自分を表現することができ、あるがままの他者を受け入れることのできる強く寛容な社会」を作れないかなと考えました。

――「強く寛容な社会」というフレーズが気になりました。「寛容さ」には、「強さ」も必要なのでしょうか?

そうですね。寛容さとは、受け入れがたい価値観をも抱えられる懐の広さのこと。それにはさまざまな衝突や問題から目を背けず、正面から向き合い続ける強さが不可欠です。

その強さが持てないと、他人のありのままを抱きしめることは難しい。だからこそ、寛容さには強さが必要なんです。バブリングの活動を通して、そういう強く寛容であれる人が一人でも増えればと思っています。
 

カミングアウトする際、どんなことを意識すればいい?

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――初めてカミングアウトをするときには、不安や恐怖もあるかと思います。どんなことを意識すれば良いでしょうか?

大きく分けて、3つポイントがあります。1つ目は、しっかりと人を選ぶこと。その人が自分の話を聴いてくれるのか、差別や偏見持っていないかを判断する必要があります。

これは日常会話の中で探ってみるのがおすすめです。たとえば、信仰している宗教についてカミングアウトしたいなら、その前に宗教の話題をさりげなく振ってみる。そこで、宗教に対して差別や偏見のある発言をする人には、カミングアウトは避けた方が良いでしょう。

――具体的には、誰をカミングアウト相手に選ぶことが多いのでしょうか?

身近な家族や友人が主ですが、あえて関係性が切れてもいい人に伝えるケースもあります。自分の人生には影響が少ない人のほうが、話しやすいこともありますから。

たとえば、ゲイの場合、まずは女性に打ち明ける人も多いです。男性だと「自分が恋愛対象になること」も同時に受け止める必要があるので。また、好きな人に対してカミングアウトと告白を同時にすると、相手の負担が大きくなりすぎる可能性があります。最初は好きな人には、伝えない方が良いのかもしれません。

それに、カミングアウトしたい相手自身も何らかの悩みの真っ最中かもしれません。カミングアウトは一人では成立しないので、もし余裕があれば相手の状況も考えてみると良いでしょう。

そもそも、カミングアウトでは相手との関係性やその場の空気を読む必要があります。そこに苦手意識があるなら、相談窓口やカウンセラーなどの専門家をカミングアウト相手に選ぶのも一つの方法だと思います。

――それぞれの悩みや個性によって、伝えやすい相手も変わるんですね。2つ目のポイントは何でしょうか?

シチュエーションを選ぶことです。誰かに聞かれそうだったり、騒がしくて落ち着かなったりする場所は避けましょう。周囲に誰もいない教室や公園など、カミングアウトしたい相手だけに集中できる環境が望ましいです。

――3つ目のポイントは何でしょうか?

「本当はこういう接し方をしてくれると楽なんだ」など、気持ちを正直に伝えることです。

カミングアウト自体に成功も失敗もありません。とはいえ、その場で全てを受け入れてもらうのは簡単ではありません。だから、大切なことはカミングアウト後にどんな関係性を築いていくか。カミングアウトした相手に全てを任せるのではなく、カミングアウトした自分も一緒に作り直していく意識が大切です。焦らず継続的に話し合っていけば良いのだと思います。

――カミングアウトの懸念として、アウティング(他人の秘密を本人の許可なく別の人に言うこと)があると思います。不用意なアウティングを防ぐために、どのようなことを意識すればいいでしょうか?

難しい問題ですが、カミングアウトした相手の逃げ道を用意することでしょうか。

誰かの秘密を一人で抱えるのは、結構しんどいことです。特に感受性が強い人だと、抱えきれなくなってしまう可能性も高い。だから、一人で悩ませないための方法をしっかり話し合う必要があります。

たとえば、他にカミングアウトした人がいれば、「この人にはカミングアウトしたから、話してもいいよ」と伝える。もし周囲にそういった人がいないのであれば、「あなたの家族だけは言ってもいいよ」と伝えると良いでしょう。

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NPO法人バブリング公式サイト内にある「カミングアウトストーリー」

バブリングのサイト上では「カミングアウトストーリー」という、セクシャルマイノリティや吃音、ギャンブル依存症などさまざまな悩みや個性を持つ人々のカミングアウト体験談を掲載しています。カミングアウトのイメージが湧かなければ、ぜひ参考にしてみてください。
 

大切な人からカミングアウトを受けたとき、どう対応すればいい?

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――逆に、カミングアウトを受けたときには、どのように受け止めればいいのでしょうか?

僕の場合、「あぁ、そうなんだ。それで?」という感じで、相手がその続きを話すのを待ちます。相手が何も話さない場合は、自分から質問しますね。

相手は勇気を振り絞ってカミングアウトしたんだから、何かしら反応がほしいとは思っているはずなんですよ。だから、相手に関心を寄せて、質問するのは大切だと思っています。

あと、それ以降で会う時に、その話題にあえて触れるようにしています。もちろん、周りに人がいる中ではなく、帰り道に二人きりになった時などです。

――あまり不用意に触れてはいけないのかなと思ってしまうのですが、どうしてわざと話題に触れるのでしょうか?

そもそも「目に見えにくい属性がなかったことにされている人生が辛い」からカミングアウトをするんですよ。

だから、それに触れないままでいると、「この間のカミングアウトをなかったことにしようとしているのかな?」「気を遣われているのかな?」と不安にさせてしまう可能性がある。

僕だったら、「そういえば、あの後どうなったの?」というふうに質問をします。

――近況報告の延長上で聞くような感じでしょうか?

そうですね。僕は、相手のカミングアウトをあんまり深刻に受け止めないようにしています。

悩みや問題はその人自身のもの。打ち明けられても、僕には直接的に関係はないんです。だから、「関心はあるけれど、あくまであなたの問題ですよ」というスタンスで、過剰な気遣いをしないようにしています。

――一見すると、冷たい印象を与えそうなスタンスですよね。

でも、それが「強く寛容な社会」に必要なことだと思っています。実際、「せっかく私に打ち明けてくれたんだから、何とかしてあげなきゃ」と相手の問題を自分のものにしてしまい、巻き込まれてしまう人って多いんですよ。そうして自己と他者を同一視していると、そのうち相手の人生をコントロールしようとしてしまうんです。

子どもからセクシャリティに関するカミングアウトを受けた親が「孫の顔が見られない」と言ってしまうのもそうだと思います。それが自分ではなく、子どもの問題だと理解していればそんなことは言わないでしょう。

一方で、自己と他者を切り分けて考えれば、それぞれ違う存在だからこそ、お互いに尊重できるわけです。
 

カミングアウトしやすい環境を作るために何ができるのか?

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――子どもがカミングアウトしやすい環境を作るために、大人はどんなことを心掛ければいいでしょうか?

日常の言葉遣いに注意することでしょうか。普段、無意識に発している言葉に差別や偏見の要素が現れると思っていて。

たとえば、学校の先生が「みんなのご両親は〜」と言った瞬間に、ひとり親や施設暮らしの子どもは含まれていないことになります。だから、「保護者」や「一緒に住んでいる大人」など多様な子どもに配慮した表現を心がけてほしいです。

――学校などで昔から使われてきた表現だと、ついポロッと出てしまうこともありますよね……。

そうですね。ただ学校の場合、先生自らが差別や偏見を助長することもあります。

たとえば、先生が「お前、いつもどもっているな」と笑えば、生徒は「どもりは笑っていい」という認識を持ってしまう。それがいじめにつながる可能性もあるので、そうした雰囲気を作らないよう気をつけてもらいたいです。

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高校教員に向けて行われた「ダイバーシティ体感ワークショップ」の様子

とはいえ、学校の先生は長時間労働などの問題もあり、なかなか多様性を学ぶための時間や機会を作れない面もあります。そのためにバブリングでは、学校や企業、自治体などに伺い、それぞれの人が持つ多様性を考えるための出張ワークショップを実施しています。

――多様性についてよく知るために、私たち一人ひとりができることはありますか?

いろんなマイノリティの人に会って話をしたり、多様性に関する作品を読んだりして世界を広げるようにしてほしいです。バブリングでも、誰でも参加できるイベントも行っています。

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新宿ゴールデン街にあるカフェバー「からーず」で行われる「バブリングバー」

その一つが、毎週日曜19〜23時に新宿で開いている「バブリングバー」です。コンセプトは、「思いがけず世界が深まるバー」。さまざまなカミングアウト経験をもつバブリングスタッフが常時2、3人カウンターに立ち、お客さんのさまざまな話を聞いたり、気が合いそうなお客さん同士を引き合わせたりしています。

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2018年の「イチゼロイチイチ」の様子。「心理的安全性」をテーマに4つの時間帯でワークショップを行った

また、2015年から毎年、カミングアウトデーである10月11日ごろに大規模イベントを開いています。

2019年はカミングアウトデーイベント「イチゼロイチイチ 〜わたしのなかのグレー展〜」として、10月14日(祝)にアーツ千代田3331で行う予定です。「グレー(白か黒かはっきりしないもの)」がテーマで、ジェンダー・家族・罪・優しさの4つの切り口で参加者全員と考えを深めていきます。

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――最後に読者に向けてメッセージをお願いいたします。

この前、20歳のゲイの子から「死にたい」と相談を受けました。聞くと、その理由にセクシャリティが絡んでいて。

僕自身も彼と同い年くらいの時に死にたかったんですけど、20年経ってもまだ「セクシャリティが理由で死にたくなる社会であること」にすごく落ち込みましたし、申し訳ない気持ちにもなりました。

もちろん20年前に比べたら、セクシャリティや障がいなど多様性についての話題は増え、いろんな人がいることが見えやすくなっているでしょう。

でも、私たち大人の努力が足りないせいで、子どもや若者が死んでいく現実がある。そのことを、もっと真摯に受け止めないといけないんじゃないでしょうか。

だからこそ、カミングアウトをしたり、されたりすることがもっと当たり前になればいいなと思うんです。

社会にはいろんな人がいるけれど、一緒に生きていける。そう考えられる人が増えれば、それぞれの“らしさ”を認め合える寛容な社会になっていく。

子どもたちが「生きたい」と思える社会にしていくためにも、一人ひとりが身近なところからその努力をしてもらえたら嬉しいです。

(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト  編集:鬼頭佳代/ノオト)

<取材先>
NPO法人バブリング

「ありのままの自分を表現することができ、あるがままの他者を受け入れることのできる強く寛容な社会」をビジョンに掲げ、大切な人へのカミングアウトを応援する団体。カミングアウトデーイベント「イチゼロイチイチ」、「バブリングバー」、「カミングアウトストーリー」、「出張ワークショップ」など幅広い取り組みをしている。2019年10月14日(祝)にアーツ千代田3331で「イチゼロイチイチ 〜わたしのなかのグレー展〜」を開催予定。

チケット購入サイト:https://1011-2019.peatix.com/
特設サイト:http://npobr.net/1011/

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