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人前に出ない進路を選んできたけれど……17年間のあがり症を克服して見つけた、緊張との付き合い方

2019年12月3日

人前に出ない進路を選んできたけれど……17年間のあがり症を克服して見つけた、緊張との付き合い方

人前に出ない進路を選んできたけれど……17年間のあがり症を克服して見つけた、緊張との付き合い方

大勢の人の前に立つと、手足や声が震える、全身から嫌な汗が流れる、頭が真っ白になって何も言えなくなる……。

「あがり症」を抱える人たちにとって、人前で何かをすることはつらくて恐ろしいもの。あがり症であること誰にも相談できず一人で悩み、生まれつきのものだとあきらめている人もいるでしょう。

そんなあがり症の人たちの悩みに応えるのが、「一般社団法人あがり症克服協会」です。17年もの間、あがり症に悩んできた鳥谷朝代(とりたに・あさよ)さんが理事長を務めます。

今回は、鳥谷さんにあがり症に悩んでいた当時の様子やあがり症のメカニズム、具体的な克服法などを聞きました。
 

あがり症は生まれつきの性質ではない

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――鳥谷さんは元々、重度のあがり症だったそうですね。

はい。私があがり症を自覚したのは中学1年生の時。国語の授業で教科書の音読に失敗したことでした。以来、板書をする際に手が震える、歌のテストで声が出ないなどの症状が出るようになり、音読で当てられそうな時には仮病を使って保健室に逃げ込むようになりました。

そんな経験から、「人前に出ないこと」を最優先にして進路を選んできました。大学での発表を避けるため就職率の高い高校に入り、卒業後は人前に出る機会が少ない市役所職員の仕事に就きました。

――そのような状態からあがり症克服に至るまでには、どんな経緯があったのでしょうか?

転機は職場で20分間の発表を命じられたことでした。これまでのように仮病で逃げることもできないので、職場を辞めるか、あがり症と向き合うかの選択を迫られたのです。

さすがに職場を辞めるわけにもいかないし、これまでも人前に立つ機会がある度に休んできたので、仕事にならなくて。そんな危機感と切迫感から、ようやくあがり症と向き合おうと決めました。それで、最初は精神内科に通ったり、催眠療法を試してみたりしました。

でも、まったく効果が出ないまま、発表の日がどんどん近づいてきて。本気で仕事を辞める覚悟をしていた頃に、ある話し方講座に出合いました。そこで生徒さんと交流したり、話し方について学んだりする中で気づいたんです。

「私だけがあがり症に悩んでいるわけじゃないんだ、人前でしっかり発表できる人はあがらないように準備しているんだ」と。

そこからあがり症の克服のメソッドを追究しはじめ、徐々に人前でも楽しく話せるようになっていきました。そして、今ではその経験を生かし、あがり症に悩む人のための協会を運営しています。

――話し方講座での出合いから、あがり症は治せるんだと気づいたのですね。

はい。あがり症は生まれつきの性質だから治せない、と思われることが多いのですが、正しいトレーニングを重ねることによって確実に克服できます。

中学1年生から17年間続いたあがり症を克服し、多くの人々を支援してきた私が言うのですから、いま悩んでいる人にもぜひ信じてもらいたいです。
 

人前で緊張するのは当たり前、問題はどうコントロールするか

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――そもそも、あがり症はどのような仕組みで起こるものなのでしょうか?

私たちが不安や恐怖を感じると、ノルアドレナリンという物質が血液中に多量に分泌されます。これにより交感神経が活性化され、心拍数や体温、血圧が上昇します。そのため、動悸や発汗、震え、赤面などあがりの症状が出るのです。これは動物が持つ自己防衛本能の一つなので、誰しもに起こりえるものです。

――では、あがりの症状が出る人と出ない人の差はどこにあるのでしょうか?

やはり、人前に対して苦手意識やトラウマがあるかどうかですね。

本協会が20~60代の男女285人に対して行った調査では、「大勢の人前で話すときに緊張する」と答えた割合は96%にも及びます。ですので、人前で緊張すること自体はごく自然な身体の反応です。

しかし、その緊張をうまくコントロールできないあがり症の人は、自己否定感が強く、失敗を引きずる傾向があります。その結果、ますます人前に対する不安や恐怖を膨らませて、失敗を繰り返してしまう。このような「負のスパイラル」に入っていることが多いです。

――あがり症の原因となる失敗経験には、どのようなものがあるのでしょうか?

私と同じく教科書の音読や楽器の演奏、板書など学校での失敗が主です。特に小学校高学年〜高校生、いわゆる思春期に認識することが多いですね。失敗をからかわれやすく、人目が気になり始める時期でもあるため、あがり症を自覚しやすくなります。

――学校であがり症を自覚しやすいのは、内面の変化と周囲の反応の2つ要因があるのですね。あがり症になりやすい人には、どのような特徴がありますか?

大きく分けて、3つの特徴があります。1つ目は、自分が人に見られていること意識しすぎること。2つ目は、恥をかきたくない、失敗したくないという思いが強いこと。3つ目は嫌なことからすぐに逃げようとすること。

また、現代はインターネットが発達して、家にいながらゲームやSNSができますから、人前に出て何かをする子どもの数は少なくなっているように思います。

本協会には中高生の受講生もいますが、普段から人前で話をしないからか、滑舌や姿勢が悪く、声が出ていない人が多いです。そのため、いざ人前に立った時にうまく話せず、なおさらあがってしまう面もあります。
 

あがり症を克服するトレーニング法

――あがり症はどうすれば克服できるのでしょうか?

当協会の講座では、最初に治したい症状や受講の目的をカウンセリングした後、先ほどお話したあがり症の原因や具体的な対処法について学びます。その後、スピーチ・プレゼンの実践を通じて、あがらない状態を少しずつ作り上げていきます。

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協会の講義の様子。講師は全員元あがり症で、小学生から80代の方まで幅広い層が参加する

あがり症の克服には、体と心の両面でのアプローチが大切です。特に身体面は分かりやすくすぐに成果が出るので、しっかり押さえておきましょう。おすすめは、姿勢矯正と発声のトレーニングです。
 

姿勢が悪いと体がガチガチになり、のどが開かず声がうまく出せなくなります。なにより自信がなさそうに映るので、他人からの印象が悪くなります。

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姿勢トレーニング法。後頭部がついていなかったり、腰を反りすぎていたりすると声が出にくくなる
 

腹式呼吸と母音の発声をマスターすると、震えにくく聞こえやすい声になります。

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腹式呼吸のやり方。呼吸を安定させることで、力強い声を出せるようになる

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母音のトレーニング法。滑舌を良くするためには、力を抜いてしっかりと口を開けることが重要
 

また、運動前にストレッチをするのと同じで、人前で話す際にも準備体操が必要です。特に緊張は手足に出やすいので、手首・足首・首をゆっくりと回すことで震えを抑える効果もあります。

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ストレッチの方法。体をほぐすことでリラックスでき、震えにくくもなる

――精神面においては、どのようなことを意識すれば良いでしょうか?

日頃からの習慣と発表本番時の考え方の2つに分けられます。

日頃から習慣づけておくと良いのは、「自ら人前に立つこと」と「小さなことでも自分を褒めること」です。

発表するのが苦手な人は「当てられたらどうしよう」という思いが強く、いざ当てられた時にパニックになってしまうんです。だからこそ、自分から発表するクセをつけておくことで、人前に対する恐怖心が薄れていきます。

特に生真面目な人は「間違えていたらどうしよう」と思いがちですが、大切なのは自分の考えを伝えること。答えが間違っていても別にいいんです。

また、「頑張ったら一言話せた」「うまく話せなかったけど、チャレンジはできた」など小さなことでもしっかり自分をほめるようにしましょう。自分をほめる習慣をつけていくことで、少しずつ自信が湧いてきますから。

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2017年に出版された『イラストでわかる 今日からあがらずに話せるコツ』(リベラル社)。あがり症克服の方法が解説されているほか、発表のためのチェックリストなどが付いている

発表本番に望むときに意識しておくと良いのは、「あがっても立て直せること」と「話す相手は自分の理解者であること」。

たとえ本番で言葉をかんでしまったり、声が震えたりしたとしても、慌てずに呼吸を整えたり、軽く手首を回したりして立て直しましょう。

また、好意的に話を聞いてくれている人を見つけ、その人に伝えるつもりで話すのもおすすめです。聞き手が理解者であるとわかると、気持ちがグッと楽になりますよ。

――いざ人前で発表する際には、どのような準備をすればよいのでしょうか?

必ずやってもらいたいのは、原稿作りと録画、誰かに発表を聞いてもらうことです。

原稿を作る目的は、自分の考えや話したいことを整理し、おおよその時間を計算することです。ただ、あまり正確に書き過ぎてしまうと、その通りに読めなかった時にパニックになる可能性もある。あくまで本番用のメモとして使うものなので、テーマとポイントを箇条書きする程度がおすすめです。

原稿を作り、話す内容が決まったら、自分がスピーチしている様子を録画しましょう。自分のスピーチを客観視することで、姿勢や声、言い回しなど改善点がたくさん見つかるはずです。

また、誰かにスピーチを聞いてもらうことも大切です。本番に近い状況を作り出せますし、自分では気づかないような指摘ももらえます。恥ずかしいとは思いますが、友人でも家族でも誰でもいいのでお願いしてみましょう。

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――最後にあがり症に悩む人に対して、メッセージをお願いします。

私は中学1年生からずっと人前を避けて進路を選んできたのですが、結局人前で発表することになりました。

協会の生徒さんからも「人前が嫌だから早く結婚した」、「逃げるように転職した」という声をよく聞きます。しかし、結婚しても子どもが育つとPTAなどで話したり、転職してもキャリアを積むほどに部下を束ねたりする必要があります。

だから、人前に出る機会から一生逃げ続けることはできないんじゃないかと思うんです。むしろ逃げれば逃げるほど追いかけてきますから、うまく付き合う方法を考えた方が良いです。そうすれば、人生の選択肢もどんどん広がっていきますから。

また本来、人前で話すのは楽しいことなんです。何かを発表してくださいと依頼されるのは、人として求められている名誉なことでもあります。ですので、人前に出ることを嫌がらず、ぜひ楽しんでもらえたらうれしいです。

(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト  編集:鬼頭佳代/ノオト)

<取材先>
一般社団法人あがり症克服協会

「かつての自分のように、人知れずあがり症で苦しむ人の助けになりたい」。そんな想いから元あがり症によるあがり症のための協会として、2014年に設立。あがり症に関する講演活動や講座の運営などを通じて、これまで7万3000人以上もの人を支援してきた。著書に『人前で『あがらない人』と『あがる人』の習慣』(明日香出版社)、『イラストでわかる 今日からあがらずに話せるコツ』(リベラル社)、監修に小学校中学年向けの学校/公共図書『こうすればきみも話せる』シリーズ全3巻(岩崎書店)などがある。

https://agarishow.or.jp/

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