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結局、「正しい性の知識」ってどう身につければいいの? NPO法人ピルコン代表・染矢明日香さんに聞く、豊かな人生を作るための性教育

2020年3月3日

結局、「正しい性の知識」ってどう身につければいいの? NPO法人ピルコン代表・染矢明日香さんに聞く、豊かな人生を作るための性教育

結局、「正しい性の知識」ってどう身につければいいの? NPO法人ピルコン代表・染矢明日香さんに聞く、豊かな人生を作るための性教育

「性教育後進国」と言われている日本。中学では性交・避妊に関しての取り扱いがNGとされ、女子栄養大学の橋本紀子らの「日本の中学校における性教育の現状と課題」によると、性教育は年間平均3時間しか行われていないというデータもあります。

「寝た子を起こすな」という考えから、中高生への性教育は不必要だとする声がある一方、正しい性の知識がないために、予期せぬ妊娠や性感染症に苦しむ若者もいます。

「性に関する知識は、自分らしい人生と豊かな人間関係を築くために必要なもの」。そう語るのは、中高生から社会人まで幅広い層に向けて、正しい性の知識を普及・啓発するNPO法人ピルコン代表の染矢明日香さんです。

現在、中高生の性をとりまく問題にはどのようなものがあるのか、正しい知識はどこで身につけられるのか、保護者は子どもに性の知識をどう伝えればいいのか。染矢さんに伺いました。
 

予期せぬ妊娠・中絶の経験から設立したピルコン

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――染矢さんは大学時代に人工妊娠中絶(以下、中絶)を経験しております。その当時の心境を教えていただけますか?

妊娠前は生理不順気味だったこともあり、自分が妊娠するとは全く思っていませんでした。でも、ある時に生理が遅れて「もしかして……。いや、違うだろう」と思いつつ確認してみたら、妊娠していて。本当に信じられず、とても戸惑いました。

当時はまだ大学生で、経済的に不安定な状態。パートナーと子どもを育てていけるのか、これまで頑張ってきた勉強や将来の夢はどうなるのか。いろいろ悩んだ末、妊娠をなかったことにしたいと考え、中絶を選びました。

ただ、その選択が本当に良かったかどうか分からなくて。そもそも、もう少し知識があれば、妊娠を防げたんじゃないかと考え、当時は苦しかったですね。

――妊娠が分かった時、ご両親には相談したのでしょうか?

はい。親のサポートは絶対に必要だと思ったので、子どもを産むかどうか迷っていた段階から相談していました。

妊娠を告げたら、絶対に怒られると思っていたのですが、意外と冷静に聴いてくれて……。「産むにしろ、産まないにしろ、ずっとあなたの味方でいるよ」「自分の選択に対して、どれだけ前向きになれたかで、その選択の価値は変わるよ」と言ってくれたことが、すごく支えになりました。

――素敵な親御さんですね。そうした経験が、現在の活動につながるわけですね。

親の理解を得られなかったケースも多く聞くので、私はラッキーだったのだと思います。中絶を経験した後、大学の授業がきっかけで「中絶は年間約16万件あって、これは国内の年間出生数の1/6に相当する」と知りました。自分の周りでも、正しい性の知識を持っている友人は少なく、「パートナーにコンドームをつけてと言えない」という悩みもよく耳にしていました。

そんな状況に対して何かできないかと思い、2007年に避妊啓発をする学生団体としてピルコンを立ち上げ、2013年にはNPO法人化しました。現在は、中・高・大学生や保護者向けの講演とワークショップ、インターネット・書籍を通じた情報発信などを行っています。

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中・高・大学生向け性教育×キャリア教育プログラム「LILY」の様子。実施後、性の健康の知識を問う問題の正答率が29%から71%へと大きく上昇したという
 

「寝た子を起こすな」は正しい考え方ではない

――「性教育後進国」と呼ばれている日本ですが、具体的にどのような問題があるのでしょうか?

例えば、以下のような問題があります。

▼中高生の性に関する諸問題

・中絶件数:年間約16万件→出生数の1/6が産まない選択
 →そのうち、10代の中絶件数は年間約1万5000件(※1)
・性経験のある女子高生の約8人に1人が性感染症に感染(※2)
・SNSを通じた10代の性被害が過去最多(※3)
・若者が触れる性情報の情報源は、「友人」「インターネット」が多くを占めており、インターネットの割合は年々増加(※4)

※1 平成29年度厚生労働省「衛生行政報告例の概要」 
※2 平成18 年国立保健医療科学院疫学部調査 
※3 平成30年警察庁「平成29年におけるSNS等に起因する被害児童の現状と対策について」  
※4 日本性教育協会編『「若者の性」白書 第7回 青少年の性行動全国調査報告』(2013年)

これらの現状の背景には、2つの要因があります。1つは、正しい情報が広まっていないこと。自分の身を守ったり、パートナーとの対等な関係を築いたりするための知識が乏しく、性行動に対するリスク認知が低い現状があります。特にいまは、SNSに載っている偏った情報を鵜呑みにしたり、AV(アダルトビデオ)を教科書のような存在として捉えたりする人も少なくありません。

もう1つは、自己肯定感の低さや居場所のなさ。自分が誰かに愛されているという実感を持てていないことから、性行動を通じて、ほんの一時だけでも自分に価値を見出そうとしたり、生きていく手段として性行為をしたりする子もいます。そんなときに、「安易な行動」と一方的に否定したり、「自分(の体)を大切にしましょう」と伝えたりしても、「綺麗事を言うな」と反発されてしまうケースは多々あります。

――こうした現状を打破するために、性教育を通じて正しい知識や自分を大切にするスキルを身につける必要がある、と。

そうですね。国際的な性教育の指針としては、2009年にユネスコが世界保健機関(WHO)などと協力して、『国際セクシュアリティ教育ガイダンス(以下、ガイダンス)』を発表しています。

この『ガイダンス』では、各国の研究成果を踏まえ、5歳から「包括的性教育」を行うことを提唱しています。

――耳慣れない言葉ですが、「包括的性教育」とはどんな内容なのでしょうか?

包括的性教育とは、性を性交や出産だけではなく、「人との関わり方や相手の立場を考えること」として捉え、科学・ジェンダー平等にもとづく性教育を指します。

たとえば、身体的・社会的・文化的な性のあり方を踏まえて、自分や他者の性のあり方をどう捉えるか、性行為の際にどのようにすれば自分と相手を大事にできるのかなど、性にまつわる事柄を広く教えていきます。

一方、日本では、性行為=非行(子どもがしてはいけない行為)、中学生に避妊や中絶を教えるのは早いというイメージが強い。そもそも学習指導要領に「性教育」というカテゴリー自体がなく、「性に関する指導」という言葉を使っており、いわゆる「はどめ規定」で性交や避妊について教える内容も制限しています。そのため、学校ではどうしても表面的なことしか伝えられない現状があるのです。

――「性教育によって子どもたちの性的な関心を増し、性行動が早まるのでは」という「寝た子を起こすな」の考え方もよく耳にします。

ユネスコなどによる国際的な調査では、「包括的性教育のあと、性活動が早くなったというデータはなく、むしろ37%が慎重化した」とあります。日本でも、秋田県の教育委員会と医師会が連携して、中高生向けに性教育を行ったところ、開始から7年後には10代の中絶率が1/3に減少した事例があります。つまり、「寝た子を起こすな」は誤った考え方です。

いまは、インターネットやスマホによって簡単に性情報を得られますが、ネット上の情報は暴力的で女性蔑視を含んだ内容も多い。正しい性教育を受けられないままで、偏った情報を当たり前のものとして捉えてしまう方がよほど危険です。

――染矢さんは学校での講演などを通じて中高生と接していますが、彼らの性に対する意識をどのように感じていますか?

やはり「性=エロい、恥ずかしい、触れてはいけないもの」といったネガティブなイメージが強く、自分事として捉えられる中高生は少ないと感じます。

意外かもしれませんが、全国各地に開設されている子どものための電話相談窓口では、男の子からの性の悩みの相談が数多く寄せられます。

保健室の先生に女性が多いこともあり、男の子は性について真面目に話し合える身近な相談相手が少なく、1人で悩みを抱えているケースが多いのです。

そこで、男の子の性に関する情報を分かりやすいかたちで伝えようと思い、『マンガでわかるオトコの子の「性」 思春期男子へ13のレッスン』(合同出版)という書籍を出版しました。

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2015年に出版され、マスターベーションや避妊、恋愛など13のテーマについて、分かりやすく説明している
 

信頼できる情報はどこで手に入れられる?

――学校でも、家庭でも、性の知識を教えるのが難しい現状があります。そんな中で、私たちはどこから情報を得ればいいのでしょうか?

ネットには偏った情報もあるものの、近年は専門家監修の正確な情報が増えてきています。ピルコンでも、ネットを通じて、正しい情報を分かりやすく伝えられないかと試行錯誤しています。

たとえば、アメリカの性教育を行うNGOが制作している、子ども向け性教育動画「Amaze」。ピルコンで日本語の翻訳・吹き替えを行っており、これから45本の動画を順次配信する予定です。

また、2019年12月に株式会社TENGAヘルスケアが、中学生・高校生向けの性教育サイト「セイシル」をオープンしました。中高生から寄せられる性に関する疑問について、さまざまな立場の専門家が答えています。ピルコンのメンバーも相談に回答していて、私は全体のアドバイザーをしています。

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「性感染症を親にバレずに治療したい」「包茎はすぐに手術したほうがいい?」など中高生から寄せられる疑問に専門家が答える「セイシル」

ほかにも、ピルコンでは恋愛・性の悩みと疑問の解決サイト「HAPPY LOVE GUIDE」や、妊娠したかもしれないと思ったときに質問へ答えると、悩みに応じて妊娠検査薬や支援先など医師監修の情報を即座に答えるLINE「ピルコンにんしんカモ相談」なども運営しています。

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選択肢を選ぶだけで、知りたい情報が得られる「ピルコンにんしんカモ相談」

――ネットには偏った情報もあるとのことですが、正しい情報を得るためのポイントはありますか?

大きく分けて2つあります。1つは、信頼できる機関や専門家が発信している情報か確認すること。厚生労働省や内閣府、WHOなどの公的な機関、産婦人科医をはじめとする医療従事者が出している情報は信ぴょう性が高いです。

もう1つは、複数の情報源から判断すること。1つの情報だけでなく、ほかの機関や専門家がどのような発信をしているかも、あわせて確認しておくとより安心でしょう。

また、ネットで得られる情報だけでは、解決できない悩みもあるでしょう。そんな時は、保健室の先生や医療機関の専門家への相談が大切。そのときは、10代のための相談窓口まとめサイト「Mex(ミークス)」もおすすめです。性をはじめさまざまな悩みに対して、全国の相談窓口を紹介しています。

妊娠を誰にも相談できず、出産を迎え、学校を中退し、社会からドロップアウトしてしまう若者も少なくありません。親に妊娠がバレたら、家にいられないという子どももいるかもしれません。しかし、世の中には親以外にも助けになってくれる専門家もいます。1人で抱え込まず、早めに信頼できる専門家に相談しましょう。
 

保護者は子どもに性についての情報をどう伝えればいい?

――子どもに正しい性の知識を身に付けてほしい一方で、なかなか話しづらい家庭もあると思います。性についての情報を、保護者が子どもにうまく伝えるポイントはありますか?

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ピルコンの講演でお会いする保護者の中にも、「何をきっかけに話せばいいのか分からない」という悩みを抱えている人は多いです。

そういう人に薦めているのは、「気になることがあれば、ここ(これまで挙げてきたWebサイトや書籍)を参考にするといいよ」、「もし何かあった時は、いつでも相談してね」と伝えておくことです。

保護者は専門家ではありませんから、分からないこともたくさんあるはず。無理に自分の口ですべてを伝える必要はありませんし、子どもと一緒に学んでいく姿勢が大切だと思います。

――「正しい知識を持った上で、性教育をしなければ」と身構える必要はないのですね。

そうですね。もし子どもから「夫婦の夜の生活」「経験人数」など答えたくないことを聞かれても、「それはプライベートなことだから言わないでおくね。あなたも“これはプライベートなことだ”と感じたら、無理に話さなくていいからね」ときちんと伝えておきましょう。そうして、性について安心して話せる関係性を築くことが大切です。

なかには、「中高生のうちは性行為を認めない」「妊娠したら大変なことになる」など具体的な対策を伝えずに、恐怖心をあおろうとする保護者もいます。そうすると、いざ困った時に子どもが相談しづらくなるので、避けたほうが良いでしょう。

――子どもが誤った性行動をしているのに気づいた場合、どのように伝えると良いのでしょうか?

まずは、子ども自身がリスクをどのように認識しているかを確かめましょう。その認識が間違っているようであれば、正確なリスク情報や具体的な対策を伝えます。

たとえば、避妊せずに性行為をしていたら、「妊娠したらその後の生活にも大きく変わるし、性感染症になる可能性もある。コンドームとピルで自分の身を守るという選択肢もあるけど、リスクがゼロになるわけじゃない。経済的・社会的に準備ができてからの方がいいかもしれないよ」と伝えてみてはどうでしょうか。

――単なる性的欲求や好奇心だけでなく、パートナーとの関係性もあるので、一方的に性行為を禁止するのも難しいですよね。すでに、望まぬ妊娠や性感染症などの悩みを抱えている子に対しては、どう接すると良いでしょうか?

難しい質問なのですが、「どうしてそんな不用意なことをしたんだ!」と責めたくなる気持ちを抑えて、子ども自身の気持ちや選択を尊重してほしいと思います。

変えられない過去を悔いても仕方がありません。なので、その子のこれからの人生を応援する立場として、一緒に考えていくのが現実的なのかな、と。

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――最後に、性に関する悩みを抱える若者にメッセージをお願いいたします。

まずは知ることから始めてみましょう。性は自分・パートナーの人生や健康にかかわる大切なテーマです。信頼できる情報源を知ることで安心できる面もたくさんありますし、自分の人生を主体的に選ぶ力になります。

私自身、低用量ピルの存在を知ってから、生理がいつ来るのか分からない不安や月経前症候群(PMS)による気分の落ち込みをコントロールできるんだと気づきました。避妊についても、パートナーとのコミュニケーションの仕方を知ったことで、「自分の意思を大切にしてもいいんだ」という自信がつきました。これは、パートナーとのより良い関係を築く上でも大切です。

性の知識は、自分らしい人生や豊かな人間関係を築くために必要なもの。ぜひ前向きな気持ちで学んでいってほしいです。

(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト  編集:鬼頭佳代/ノオト)

<取材先>
NPO法人ピルコン

正しい性の知識と判断力を育む支援により、これからの世代が自分らしく生き、豊かな人間関係を築ける社会の実現を目指す非営利団体。医療従事者などの専門家の協力を得ながら、中高生からその保護者まで幅広い層に向けて、性教育・ライフプランニングプログラムやコンテンツの開発・普及と、性の健康に関する啓発活動を行っている。

https://pilcon.org/

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