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「マスクを取るのが怖い」の裏にある心理とは? ノーマスクの「自分の顔」と付き合うヒント

2022年1月11日

「マスクを取るのが怖い」の裏にある心理とは? ノーマスクの「自分の顔」と付き合うヒント

「マスクを取るのが怖い」の裏にある心理とは? ノーマスクの「自分の顔」と付き合うヒント

「マスクを取る日が来るのが怖い」――これが誰にでも起こるごく自然な感情だということをご存じですか?

「人は誰しも『人に見られるのが怖い』『自分の顔が変だったらどうしよう』という感覚を持っており、それがマスクを着けているときの安心感につながるのです」と説明するのは、人の顔について長年研究している中央大学教授の山口真美さん。

人が他人の顔を見るのは、人間関係の第一歩。人は相手の顔から性別、年齢、表情など多くの情報を読み取り、それをもとにコミュニケーションしたり、人の顔を記憶したりするのです。

「顔とは、人に評価されるためのものではなく、他人に自分自身を示す看板のようなもの」だと山口さん。それでも他者からの視線が気になる私たちは、「自分の顔」とどう付き合っていけばいいか、いつか来る「マスクを外す日」のために考えます。
 

中高生の心が「マスクを取るのが怖い」と思わせる理由

マスク姿でのコミュニケーションが新しい習慣となってから、1年半あまり。家を出ればマスクをつけることが当たり前になったいま、今度は「マスクを取る日が来るのが怖い」という新たな不安に襲われている人もいるのではないでしょうか。

「中高生がマスクを取る日を不安に感じてしまうのは、ごく自然なことです。人は誰しも、人の目にさらされるのを怖いと感じる『対人恐怖』や、自分の顔が普通の人と違っていることを恐れる『醜形恐怖』を持っています。マスク生活は、それらを感じなくていいという安心感があるゆえに、人に素顔をさらす外すハードルを上げてしまったと考えられます」

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素顔を見られてがっかりされたくない、と考える人もいるでしょう。「マスクをしている方が美人だと言われる」「マスクを取ったらギャップがあって驚く」という現象もまた、誰にでも起こるからです。

「人間の脳には、顔の一部分が隠されていたとき、そこを平均的な顔で補うという特性があります。平均的な顔とは特徴のない顔、つまり一般的な美しさに近い顔なので、マスクを外したときにギャップが生じるのは自然なことなのです」

実は、感情をコントロールする脳の扁桃体が成熟しきるのは30才ごろ成人を過ぎた頃といわれています。10代という時期は、まだその機能が未熟なため、不安をより強く感じがち。ネガティブな感情に振り回されてしまったり、人とのコミュニケーションがうまくいかなかったり、何かに依存しやすかったりするのも、そのせいです。

人は「自分の顔」を正しく認識できない

そもそも「顔」は、どんな役割を果たすものなのでしょうか。自分の顔について考えるとき、私たちは「どうアピールするか」「どう評価してもらうか」という発想になりがちです。しかし山口さんは、顔とは“自分が何者であるかを他人に示す看板のようなもの”だと指摘します。

「人は、他人の顔から性別や年齢、感情などさまざまな情報を読み取り、それをもとにコミュニケーションしたり、顔を記憶したりしています」

元来、私たちは「自分の顔」を自分で正しく判断することはできません。たとえば、他人が見ている顔は、自分が鏡で見ている顔を左右逆転させたもの。人は、鏡に映る顔の左半分が右側に、右半分が左側に配置された顔を見ているのです。

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「さらに、人は他人の顔の印象を、顔の左半分で判断するといわれます。自分と他人では、違う側の顔を見て『この人はこういう顔だ』と認識しているのです。もっと言えば、人が同じ顔を見続けていると、その顔の見方はゆがむとわかっています。つまり、私たちはもともと、毎日鏡で見ている顔、毎日会っている人の顔を正しく認識することは不可能なのです」

顔が自分でも他人でも正しく認識できないものなのであれば、美醜による評価にこだわるのは無意味だといえます。とはいえ、美醜で人を評価したり、ランクづけしたりする人の声は大きく、無視するのが難しいこともあるでしょう。

「人を美醜で評価するのは『幼稚な感覚だな』と思えるようになってほしいなと思います。実際に、発達的に見て、見た目だけでその人を認識しているのは、赤ちゃんや幼児、せいぜい小学生まで。精神的にも成長しつつある中高生は、本来ならば、見た目以外の情報も含めて他人を見分けることができるのです」

顔の美とは、骨格だけでなく、顔表面をおおう皮膚や筋肉、表情の作り方、顔に表れた心身の健康さなど、さまざまな要因で決まるもの。多面的で不確かなものなのです。

「何より、大切な人間関係は、気が合う人、自分のことを理解してくれる人、遠くにいても自分を親しく感じてくれる人とのあいだに生まれます。表面的な部分だけにとらわれず、本質的な部分でわかり合える人たちとのつながりを大切にしてほしいと思います」

マスクでコミュニケーションの仕方は変わる?

日本人は、顔を介して世界でも特殊といわれるほどに繊細なコミュニケーションをしているとわかっています。では、マスクをしているときとしていないときで、人間関係は変化するのでしょうか。

「相手の表情を読み取ろうとするとき、日本を含む東アジア人は目元に注目し、欧米人は口元に注目するという結果が出ています。これは、大人でも生後7カ月の赤ちゃんでも同じです。日本人は、マスクをしていても相手の感情をなんとなく読み取ることができますが、欧米人はマスクをしていると相手の感情が読み取りにくくなるのです」

欧米の場合、マスクをしていると聞き取りづらい言語も多いため、言葉も気持ちもわからない気持ち悪さがあるといわれます。一方、日本ではその不快さを感じにくいそう。

「東アジアでは、人々は目元から表情を読み取ることが多いうえ、小学生以降ならば、相手がマスクをしていても、経験から隠された部分を想像して補完することができます。そのため、マスク姿でも基本的なコミュニケーションはできると考えられます」

ただし、相手の顔の大部分を占める下半分と口の動かし方が見えないことは、別の問題を生じさせます。人は、コミュニケーションをするときと相手の顔を記憶するときで、顔の違う部分を見ているからです。

「日本では、一般に相手の顔を覚えようとするときは、表情を読み取る時は違って、顔全体、特に顔の下半分も見て、目鼻口の配置で記憶するとされています。少人数の親密な友人関係であれば、たとえ顔は目元しか記憶できなくても、声のトーンや言動といった別の情報で相手を覚える機会があるでしょう。しかし、クラスなどの場を通じてゆるくつながっている相手の場合、マスクの顔では情報が少なく、イメージチェンジをすればわからなくなってしまう可能性もあります」

今のようにマスクをつけたままでコミュニケーションに困らないならば、マスク生活を続けたいと考える人もいるでしょう。他人に覚えてもらわずとも、仲のいい人とだけつながっていればいいと考えるかもしれません。

しかし、新しい環境に身をおくときに、知った顔を見つけるだけで安心感を抱いたことはないでしょうか? もしかしたら、顔見知りから大切な友人に発展したり、新しいグループと出会えたりと、自分の世界や可能性が広がるきっかけになることもあるかもしれません。

 

マスクなしの「自分の顔」と付き合うテクニック

日本で感染症が流行することは、過去に何度もありました。それでもコロナ以前にはマスクなしの生活をしていたことを考えれば、今後、マスクなしの日常が戻ってくる可能性は大いにあります。

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「マスクを取ることに抵抗がある人は、顔を『人間関係の善し悪しを測るバロメーター』だと考えるのがいいかもしれません。顔は、相手に自分が元気かどうかを見てもらったり、自分の感情を伝えたりするためのもの。偽りのない感情を自然と表現できる相手は、ありのままの自分を受け入れてくれる人、つまりいい関係を結べる人なのです」

もし無理をして笑ったり、感情を隠したりしなければならない相手であれば、顔の違和感を大切にしてほしいと山口さん。

「人間同士、相性の善し悪しは誰とでもあるものです。自分が自然体でいられない相手、自分の顔についてずけずけと評価しようする相手は、相性の良くない人。家族や親戚など、たとえ血のつながりがあったとしても、距離をおいていいのです」

自分がどんな顔でいたいのかを考えるならば、「どんな造作か」ではなく「どんな人にとって魅力的な顔でありたいのか」を思い描いてみましょう。自分がどんな価値観を持ち、どんな生き方をする人たちと関係を結んでいきたいのか――。

すぐに答えはでないかもしれませんが、身近な友人や大切な人を具体的に思い浮かべると、目指すべき「自分の顔」のヒントが見えてくるはず。

「人生の最初の30年間、人間は感情とともに人の顔を記憶し、自分が過ごしやすい人間関係のデータベースを蓄積していきます。10代は、人の顔を見分ける『顔認識』の力を育てている真っ最中。自分が自分らしくいられる相手はどんな人かを知っていく時期ですから、勇気を持って人と関わってみてください。ときに失敗を学習することも、大学生、社会人になっていい仲間と出会うためのヒントになりますから」

顔は表にさらけ出してこそ、使いこなせるもの。ノーマスクで過ごせる日が来たならば、自分らしくいられる場を探すアンテナにしたり、余裕がないときはマスクで心の安全を保ったりと、うまく顔と付き合っていきましょう。

(取材・執筆:有馬ゆえ 企画・編集:鬼頭佳代/ノオト)

<取材先>
山口真美(やまぐち まさみ)さん

中央大学文学部心理学研究室教授。お茶の水女子大学大学院修了後、ATR人間情報通信研究所・福島大学生涯学習教育研究センターを経て、現職。1歳未満の赤ちゃんの「世界を見る能力」(視知覚能力)の発達や、古来から人間が顔と身体をどう考えてきたかについて研究している。著書に『自分の顔が好きですか? 「顔」の心理学』『こころと身体の心理学』(ともに岩波ジュニア新書)などがある。

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