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家では話せるのに学校では……。話したくても話せない「場面緘黙」と付き合う方法

2022年2月21日

家では話せるのに学校では……。話したくても話せない「場面緘黙」と付き合う方法

家では話せるのに学校では……。話したくても話せない「場面緘黙」と付き合う方法

家では普通に話せるのに、学校などの特定の場所では話ができない「場面緘黙(ばめんかんもく)」。背景には不安や緊張があるといわれ、体が動かないなどの症状をともなうこともあります。

「場面緘黙は、決して本人の努力不足や甘えのせいで起こるものではなく、また『話せない』という症状は固定的なものではありません。計画を立てて話す練習すれば症状を改善できることがほとんどです」

こう話すのは、長野大学社会福祉学部教授の高木潤野さん。場面緘黙の治療、研究に携わる高木さんに、中高生の場面緘黙の実情や場面緘黙を治すための練習法、将来についての考え方について聞きました。
 

家では話せるのに学校などでは話せない「場面緘黙」とは

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家では普通に話すことができるのに、学校など特定の場所では声が出せない、コミュニケーションがとれないなどの困難を抱える「場面緘黙」。日本では小学生の500人に1人といわれ、多くは幼児期から学齢期(小学生から高校生)に症状が現れるとされています。

「場面緘黙は、本人の気質と環境要因が組み合わさって生じると考えられています。場面緘黙の人の多くが、もともと不安や緊張を感じやすい気質を持っているといわれます。そのほか、感覚的な過敏さなど、場面緘黙以外の症状をあわせ持つことが少なくありません」(高木先生、以下同)

本人の気質だけでなく、本人のおかれた環境も発症に関係します。たとえば、本人が不安や緊張を感じやすい環境、本人に過度な負担がかかる環境、また教師、クラスメートなどの言動が不安や緊張を招くような環境もあります。そのため、入園、入学、転校といった環境の変化、いじめ、先生からの叱責がきっかけになる人も。

「場面緘黙とは、強い不安や緊張で行動が抑制されてしまい、その人らしさが発揮できない状態だと捉えることができます。『話せなくても困らないように支援をすればよいのでは』と考える人もいますが、話せないこと自体がとても困ることだと考えなければなりません。早期からの適切な対応が必要です」

場面緘黙の症状は人それぞれに異なり、家族としか話せない人もいれば、学校であっても友達となら話せる人、授業中の発言だけはできる人、まったく知らない人なら話せる人もいます。

「話せないだけでなく、体が固まる、字が書けない、トイレに行けない、食事ができないといった身体的な症状を伴うこともあります。また強い不安や恐怖などがあることによって、学校に行ったり、教室や集団に入ったりするのが難しくなる人もいます」

緊張を感じやすかったり、聴覚や触覚の過敏さがあったり、過度な疲労や倦怠感などの心理的、身体的な症状をともなうことも。

「場面緘黙の人たちは、ただ生活の不便さを抱えているだけではありません。中学生以降になると試験で不当に低い評価を受けたりするなど、具体的な不利益を被ることも増えます。たとえば、音楽や発表が必要な教科で低い成績をつけられたり、体育の授業に参加できず評価の対象にならなかったりすることもあります。こうした成績評価の問題は進学にも影響するでしょう」

場面緘黙が理解されずに内申点が低くなる、入試など面接のときに声が出せないといったケースも考えられます。行動面で苦手を抱える人は、一人で通学できない、修学旅行や部活に参加できない、クラスメートと食事をするのが嫌で午前中で帰宅してしまうこともあるそう。

「年齢が上がるほど、友人関係も維持するのも難しくなっていきます。場面緘黙の人は話しかけられても返事ができなかったり、自分から遊びに誘うのが難しかったりするので、孤立してしまうこともあります。また社会的状況で話せない状態が続くと、年齢に応じた経験ができずにコミュニケーションの力が育っていきにくいと訴える当事者の方もいます」

そのため、多くの場面緘黙の人が、気軽に話せる友達ができず、自分の悩みを打ち明けづらいという問題を抱えていると言います。


高木潤野さんはYoutubeでも「学校で話せなくなってしまうあなたへ」というシリーズ動画を配信中
 

中高生が「話す練習」をする方法

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では、場面緘黙の症状を改善させたい中高生は、どうすればよいのでしょうか。

「まずおすすめしたいのは、場面緘黙について知ること。特に、場面緘黙の症状は改善するということを本人が知っておくのは大事です。また『不安症』『自閉スペクトラム症』などの関連する症状や、『エクスポージャー』『認知行動療法』といった心理療法の技法などのキーワードで検索して学んでおくと参考になることがあるかもしれません」

同時に、本人が『話せるようになりたい』という気持ちを持っていることも重要です。

「私がカウンセリングをしていても、『話せるようになりたい』という気持ちがある人は改善していきやすいと感じます。場面緘黙の症状は、計画を立てて練習をすれば改善させることができます。ぜひ、自分一人ではなく、保護者や学校の先生などと協力して、話す練習に取り組んでほしいと思います」

■場面緘黙について相談したいなら

  • 学校のスクールカウンセラー、養護教諭、特別支援教育コーディネーターなど
  • 都道府県などの教育委員会の教育相談窓口
  • 特別支援学校の教育相談窓口
  • 市区町村の教育相談窓口
  • 市区町村などの発達相談センター
  • 公認心理師、臨床心理士、言語聴覚士(ST)などの専門職がいそうな病院

専門家の力を借りるのは、勇気がいるかもしれません。しかし、専門家は、練習の長い道のりを一緒に歩むよきパートナーになってくれるはず。場面緘黙の正しい支援ができる専門家は確実に増えてきているそうです。

「場面緘黙は医学的には『不安症』のグループに分類されています。また日本の法律(発達障害者支援法)では『発達障害』に該当しています。学校教育の制度では『情緒障害』というグループに分類されていて、特別支援学級を利用する場合は『自閉症・情緒障害』の学級の対象になります。つまり、医療や保健福祉、学校教育それぞれの枠組みの中で、支援を受ける体制が整っていると言えます。場面緘黙の症状で困っていたら、一人で悩まずにまずは相談してみるのがよいでしょう」

まだ正しく理解が進んでいないため、相談先に場面緘黙について詳しい専門職の人がいないかもしれません。それでも、場面緘黙を知っている専門職は増えてきています。どんどん専門機関も頼ってみてください。

「もし『話せるようになりたい』と思ったら、まずは『誰と話せるようになりたいか』という目標から考えてみてください。その際、自分一人で行おうとするのではなく、家族や学校の先生など身近な人と一緒に計画を立てることをおすすめします。また、無理して難しいことにいきなり挑戦するよりも、『できること』『やったらできそうなこと』をコツコツ実践していく方がうまくいきます」

目標に向かって少しずつ練習を続けて行けば、話せる相手や場面を少しずつ増やしていくことができる、と高木さんは話します。

■話す練習をするときの基本的な考え方

話す練習をするときは、初めから大きな目標にチャレンジするのではなく、自分ができそうな小さな課題を一つひとつクリアしながら、少しずつ話せる相手や場面を広げていく、というのが基本的な考え方です。「できた」という経験を積むことが大切です。少しずつでいいので、できることを増やしていきましょう。

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どんなことなら「できそう」かは、「人」「場所」「活動」を組み合わせると考えやすくなります。どんな相手とどんな場所でどんな活動をするのか、取り組みやすい「場面」を考えてみましょう。

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具体的な方法は、『臨床家のための場面緘黙改善プログラム』(学苑社)で解説されています。ぜひ、保護者や先生、専門家などと一緒に取り組んでみてください。
 

先生や家族、友達など、周囲に協力してもらうには?

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「話す」というのは、相手があってこそ成り立つ行為。家以外の場所で練習をするなら、先生や友達などの協力は不可欠です。

自分から協力をお願いするのは簡単なことではありません。しかし、先生など周りの人たちも「どうしていいかわからない」「傷つけたらどうしよう」と思ってしまい、場面緘黙の人に「話をする」ことについて話題にするのは難しいのです。

「伝え方は手紙やメールなど、自分がやりやすいと思う方法で構いません。まずは困っていることや相談したいことなど、どんなことでもいいので伝えてみましょう。学校の先生なら、生徒から手紙をもらえば真剣に受け止めてくれると思いますよ」

場面緘黙についての説明は、この記事を印刷して持っていくといいと高木さん。下記のメッセージも伝えてほしいと話します。

場面緘黙の人の身近にいる大人の方へ

場面緘黙の人と関わるときには、まずはその人の話をよく聴いてみてください。場面緘黙は「人前では話しづらくなってしまう」という症状ですが、話せないだけで思っていることや考えていることはたくさんあるはずです。声で話すことは苦手でも、筆談や手紙、メールのやりとりなどなら思いを伝えることができるかもしれません。

場面緘黙の人の思いを聴くための一番いい方法は、時間をかけることです。丁寧に時間をかけて、その人からのメッセージに耳を傾けてください。

また、場面緘黙の症状があると言っても、困っていることは人それぞれです。どんな支援をしたらよいかも人によって全く違ってきます。その人の思いをよく聴き取って、一緒に考えてあげてください。

進路や将来は、焦らず、常識にとらわれずに考えよう

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今の環境で場面緘黙に苦しんでいるならば、環境を変えることも選択肢の一つになることがあると高木さん。学校の中の環境を変えてうまくいくこともありますし、転校などによって学校そのもののをかえるという手段が成功することもあります。通信制高校も積極的に選択肢にしてほしいと強調します。

中学、高校は3年間、同じ学校に通って卒業するもの、たくさんの友達と一緒に過ごすもの、といった思い込みにとらわれる必要はありません。青春にも、多様な選択肢があっていいのです。

「将来を考えるときも、『話せなくてもできる仕事はなにか』のように考える必要はありません。場面緘黙の症状は治るものです。むしろ『こういう職業に就きたい』『こんなふうに生きていきたい』のようないい見通しを持っている人の方が、緘黙症状を改善させることもしやすくなると思っています」

世の中には、数え切れないほどたくさんの仕事があるもの。世の中にどんな仕事があるのか調べてみると、世界は広がるはずです。

「焦らず先のことを考えましょう。『来年までに』『中学の卒業までに』ではなく、『大学卒業までに』『20代のうちに』といった余裕を持って考えた方が、長期的な視点に立った計画が立てやすいです。たとえば14歳の中学生だったら、大学卒業の年齢まであと8年かけてできることを増やせばいい、と考えてみてください。日本の学校教育を受けていると、高校卒業や大学卒業までに将来が決まるかのように思ってしまうかもしれません。しかし実際は、多くの人が20代、30代で転職をしたり、新しい資格を取ったりしながら生き方を変えていきます。だから焦らなくても大丈夫なのです」

寿命が延びている現代、30代ぐらいまで自分に合った生き方を探してもいい、と高木さん。どうしてもなりたい職業が見つかれば、それがきっかけになって話せるようになる人は多いそうです。

目を向けるべきは、できないことではなく、情熱が発火する瞬間。何かを好きだと思う気持ち、憧れる気持ちが、あなたの「できる」を育ててくれるはずです。

(取材・執筆:有馬ゆえ 企画・編集:鬼頭佳代/ノオト)

<取材先>
高木潤野(たかぎ じゅんや)さん

長野大学社会福祉学部教授。博士(教育学)、公認心理師・臨床発達心理士。専門は言語・コミュニケーション障害。東京学芸大学大学院博士課程修了後、東京都立養護学校自立活動専任教諭、小学校ことばの教室などを経て現職。場面緘黙研究の傍ら、地域の自治体の教育支援委員会や発達相談に携わる。著書に『臨床家のための場面緘黙改善プログラム』(学苑社)など。YouTubeチャンネル「はなせるTV」でも情報発信を行っている。
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